アルジェリア人質事件で、日揮の社員ら10人を殺害したイスラム過激派武装勢力の首謀者、モフタール・ベルモフタールは欧米諸国ではタバコの密輸でテロ資金を稼いだことで知られ、かつて「ミスター・マルボロ」と呼ばれていた。
アルジェリアのジャーナリストやイスラム過激派のテロ活動に詳しい専門家によると、ベルモフタールは1972年にアルジェリア東部の都市ガルダイア生まれで現在、40歳。少年時代からイスラム聖戦に関心を抱いており、19歳のときに、旧ソ連軍に占領されていたアフガニスタンに渡り、旧ソ連軍と戦っていたイスラム武装勢力の下で軍事訓練を受け、実戦にも参加。その戦闘がもとで、片目を失っている。
ベルモフタールは2年後の1993年、軍とイスラム武装勢力による軍事紛争で内戦状態に陥っていたアルジェリアに戻り、武装勢力側で指導者としての頭角を現していった。内戦は軍側が勝利し2002年に終結するが、ベルモフタールら武装勢力はテロ活動を強化し、外国人旅行者や国連職員らの誘拐を繰り返し、一説によると、80億円といわれる多額の身代金を手にする一方、タバコやコカインなどの密輸にも乗り出した。
誘拐や密輸で稼いだ潤沢な資金をもとに武器や爆弾などを購入し、警察署や天然ガス採掘プラントを襲撃するなど、テロ活動を活発化させ、欠席裁判で何度も死刑判決を受けている。
アルジェリア当局の懸命の捜査にもかかわらず、ベルモフタールが逮捕されないのは、アフリカ大陸の3分の1の面積を占め、11か国にまたがる世界最大の沙漠であるサハラ砂漠の地理に精通していること。さらに、アラブの有力部族長の娘ら4人を妻にしていることで、砂漠内に秘密拠点をいくつも持ち身を隠すのに好都合で、治安関係者からは、拘束不可能といわれている。
ベルモフタールと今回の事件との接点はプラント襲撃だ。彼は多くの外国人誘拐事件で多額の身代金を手にしたことに味をしめ、イエメナスのプラントには日系企業駐在員が多く働いているとの情報を得て身代金目的の誘拐を計画。
「アルジェリア側が交渉を拒否したため、計画は失敗したが、今後は軍や政府のほか、外国人を狙った無差別報復テロが多発することが懸念される」と中東情勢の事情通は話している。