領土問題に刺激され、ネトウヨの数は増えているとされる。その支持を一身に集めてきた安倍晋三氏だが、首相となった今、逆にネトウヨとの“共闘”が道を誤る引き金になりかねない。ブロガー投資家の山本一郎氏がその理由を解説する。
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総選挙に圧勝したことで、安倍氏は以前にも増して、自分はネット上に非常に強力な支持母体を持ち、自分こそがネット時代に相応しい政治家なのだと自信を深めたのではないか。もしそうだとしたら、安倍氏は自分を巡って起きている現象を客観的に見ているとは言えない。
ネットには、同じような意見が同じ場所に集まりやすい特質がある。だからこそ、安倍氏のフェイスブックは盛り上がっているのだが、裏返せば、ネット上には安倍批判者が多く集まる場所もある。
たとえば、「Yahoo!みんなの政治」が総選挙直前に行なったアンケートでは自民党と未来の党の支持率はそれぞれ26%、24%と拮抗していた。また、ブログの紹介サイト「ブロゴス」には安倍氏の経済政策を厳しく批判する記事が数多くアップされている。
フェイスブックへの安倍氏の熱の入れようは、まるで熱烈な支持者の集会ばかりに顔を出し、批判的な人を含む世間一般の有権者を見ていないようにも映る。これは危険な状態だ。
また、ネトウヨをはじめとするネットユーザーが、責任ある組織的な行動を取ることはあまりない。たとえば、安倍氏がフィード購読者をオフラインの支持母体として組織化しようとしたり、彼らから個人献金を募ったりしても、期待通りの成果は得られないだろう。
そのことは、過去に森内閣打倒を目指して「加藤の乱」を起こした加藤紘一氏や、2ちゃんねらーの呼び掛けで著書がアマゾンで1位にランクされた麻生太郎氏が、一瞬、ネットユーザーから強い支持を受けながら、結局、その支持を政局や選挙に活かせなかったことが証明している。
それどころかネトウヨから強く支持されていること自体が、実は大きなリスク要因ともなり得る。自民党こそ熟知していることだが、政権与党になれば領土問題ひとつ取っても相手のあることであり、さらに経済界などの意向も無視できないので、強硬姿勢を貫き通すことは難しい。問題を解決しようとすればどこかで政治的妥協が必要になる。そもそも政治とはそういうものだ。
ところが、前述したようにネットユーザー、特にネトウヨは妥協を嫌う。妥協は現実世界の重要なコミュニケーション・スキルだが、ネトウヨにはその現実から逃避したくてネトウヨになっている者が少なくない。
そのため、安倍氏が中国、韓国に対して譲歩するような姿勢を見せた途端、期待が幻滅に変わる。期待が大きければ裏切られた時の幻滅も大きく、安倍氏に対する批判も強くなる。ネットユーザーが掌を返すように、いっせいに安倍氏の批判に回る可能性がある。そして、結果が出るまでじっくり待つことをしないのもネット言論の特徴である。安倍氏に与えられた時間は長くない。
※SAPIO2013年2月号