この4月1日から事実上の「65歳定年制」が導入される。改正高年齢者雇用安定法の規定によって、会社は雇用延長の制度をつくり、社員が希望すれば65歳まで雇用しなければならなくなるのだ。
厚生労働省高齢者雇用対策課の担当者はこう自画自賛する。
「労働契約の自由は認められているので、会社側は雇用延長にあたって給料は下げてもいい。その条件で折り合えば60歳以降の雇用契約を結び直すことになります。これまでは会社側が継続雇用する人の基準を決め、本人が働きたいといっても基準に合わない人ははねることができた。
しかし、4月からは、その条件で働くことを希望する社員を全員、65歳まで雇用しなければならない。企業は人件費を抑えることができるし、社員は65歳まで働けるという互いにメリットがある制度です」
とはいえ、厚労省が自慢するほどバラ色の制度ではない。希望者全員の65歳までの雇用が義務づけられたのは、社会保障制度の改悪によって60歳定年後に年金空白期間が生じるためだ。
年金の受給開始年齢は1986年に65歳に引き上げられたが、現在は経過措置としてサラリーマンは60歳から厚生年金の報酬比例部分(勤続40年の平均モデルで月額約10万円)を受給することができる。年金の部分年金と呼ばれる制度だ。「悠々自適」とまではいえないにしろ、この支給があれば、60歳で定年退職してもある程度の生活の基盤は確保することができた。
ところが、この4月に60歳を迎える世代(1953年4月2日生まれ以降)から、男性サラリーマンは部分年金の開始年齢が61歳に引き上げられ、定年退職後1年間は「収入ゼロ」で生活しなければならない。部分年金の開始年齢は段階的に引き上げられ、12年後に65歳を迎える1961年4月2日生まれ以降の世代には部分年金がなく、65歳まで年金は1円ももらえない(女性は5年遅れで廃止)。
もし、このまま60歳で大量のサラリーマンが退職すればどうなるか。年金が出るまで収入がないため、生活保護受給世帯が増えるのは火を見るより明らかだろう。それを恐れた政府は年金空白期間を補うために、サラリーマンを65歳まで働かせ、国が年金を払うかわりに企業にその間の人件費を負担させようという狙いで希望者全員、65歳まで雇用延長することを義務化したのだ。
※週刊ポスト2013年2月8日号