威勢良く覇権主義を唱える中国を動かす権力者たちは本音では戦争を望んでいない。人民解放軍には実戦経験に乏しいという“アキレス腱”があるからだという。ジャーナリストの富坂聰氏が解説する。
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このところ人民解放軍は遠洋で大規模な艦隊を運用するなど、派手な動きを見せるため、軍幹部の強硬発言と相まって、猛者、百戦錬磨といった印象を抱く日本人も多いのではないだろうか。
だが、歴史を見ればわかる通り、中国の戦争の基本は広大な国土の奥深くまで引き込んでゲリラ戦を仕掛け、長期戦に持ち込むというものだ。 「外」に出ての戦いは苦手とする。アメリカが背後に控えているとはいえ、台湾を攻め落とすことができない。中国本土に至近の金門島は台湾の重要な軍事拠点だが、1958年に人民解放軍が侵攻すべく激しく砲撃したが、陥落させられなかった。
海戦ともなれば、経験は皆無だ。1927年8月1日の「南昌蜂起」以来、人民解放軍はその誕生から陸軍が主体であり、海軍が創設されたのは1949年のことだ。過去、台湾や南ベトナムを相手に小規模な海戦はあったが、第二次世界大戦でミッドウェー海戦を戦った日本とは比べものにならないほど小さな経験だ。
経験値という点で人民解放軍は、日露戦争で日本海海戦を経験する以前の旧帝国海軍レベルだと考えていい。
尖閣諸島を巡り、日中がもし熱い戦争に突入した場合、自衛隊の装備の充実や練度もさることながら、そのような経験値の違いから緒戦は日本が勝利する可能性が高い。確かに、日中戦争のときのように対中戦には「終わらない怖さ」があるが、現在は緒戦の勝敗が重大な意味を持つ。
というのも、緒戦で日本に負けたとなれば、いかに情報統制しようともインターネットなどを通じて敗戦は瞬く間に中国国民の知るところとなる。その時、果たして共産党政権は持ちこたえられるだろうか。戦争は継続するかもしれないが、「よりによって日本に負けた」責任を追及される共産党政権は崩壊する可能性が高い。
※SAPIO2013年2月号