アルジェリアの人質事件でプラントメーカー・日揮の日本人駐在員が殺害されたことで、改めて海外駐在員の存在に注目が集まっている。
赴任先の住環境や治安状態、気候風土の違いによって、企業は「ハードシップ」という“危険手当”を支給する。大手商社OBは明かす。
「商社の場合、手当は8~15ランク程度に分かれています。アルジェリアをはじめ北アフリカと中東諸国、それに中南米の一部、アジアならパキスタン、アフガニスタン赴任で1級の手当が出ます」
1級国のハードシップは、年収換算して、国内勤務の同期より3割増しから2倍近い額となる。「そうした国々では、観光や娯楽などでお金を使う機会もほとんどなく、食費や住居費もかからないので、お金は間違いなく貯まる。帰国したらすぐに家を買う若手も多い」(同前)という。ちなみにシンガポールや欧米主要国のような“平和で安全”な場合、手当すら出ないケースもあるという。
企業の人事問題に詳しいジャーナリストの溝上憲文氏もうなずく。
「日揮だと35歳で平均年収800万円を超えているはずですから、危険地域に派遣されれば軽く1000万円はオーバーするはず。それだけの値打ちがある仕事だと理解すべきです」
危険と隣り合わせのエリアである以上、当然“最悪の事態”を想定しておかなければならない。
「通常、大きな企業は団体定期保険という企業保険に損保と生保の両方で加入しています。現地で社員が死亡したり負傷したら生命保険から保険金が下ります。今回のようなテロの場合も労災が適用されるでしょう」(保険評論家の大地一成氏)
団体定期保険はたとえば、部長職以上はAランク、中間管理職はBランク、平社員はCランクといった区分けがされており、保険金にも差がつけられている。
「もともと保険金の額は大きくありません。むしろ会社が支払う弔慰金の中身が問題になります。今回の事件は社会的注目度も高く、日揮はプラスアルファの金額を提示するはずですし、国からも金一封が出るかもしれません」(同前)
とはいえ、どの駐在員も「金のために危険な国へいくわけではない」と口をそろえる。
元味の素ラテンアメリカ本部長で海外職業訓練協会国際アドバイザーの酒井芳彦氏はいう。
「衛生環境が悪い発展途上国の食事情は貧しい。美しい食を通じて生活を豊かにしてもらいたいという使命感とやりがいを感じていました」
建設会社社員も力説する。
「各国の経済的発展に寄与するダイナミズムはもちろん、現地で深い人間関係を構築できる。苦楽を共にした世界の親友を退職後に訪ねるのが今から愉しみです」
大手商社社員の妻は夫をこのように見ている。
「夫は難しい商談を成功させた時はとてもうれしそうで、背中が大きく見えます。国内勤務の時よりも会社に貢献しているようです」
定年を過ぎても、高い技術やノウハウを見込まれ新興国へ出向く駐在員も少なくない。確かに子どもが独立し、家のローンも終わったものの、まだまだ元気な世代が、自分の技術を必要とする土地に第二の人生を託すのは不思議なことではない。実際、アルジェリアの人質事件の犠牲者にも60代の技術者が含まれていた。
祖国のため、企業のため、家族のため、駐在先の国のため――ジャパニーズ・ビジネスマンは、若手からベテランまでこぞって身を犠牲にして働いている。
※週刊ポスト2013年2月8日号