4月1日から改正高年齢者雇用安定法の規定によって、会社は雇用延長の制度をつくり、社員が希望すれば65歳まで雇用しなければならなくなる。年金の空白期間を補うために、サラリーマンを65歳まで働かせ、国が年金を払うかわりに企業にその間の人件費を負担させようという狙いだ。
当然、企業側には人件費負担が重くのしかかる。
みずほ総合研究所では、全サラリーマンの年金受給開始が65歳となる2025年度には新たな高齢者雇用が65万人生まれ、企業全体で年間の人件費は1.9兆円増加すると試算している。
それだけの人件費を余分に払える余裕があるならいいが、今や、どの企業も長引く不況の中で人件費を抑制している。仮に企業が総人件費を増やさなかった場合、65歳定年制導入で高齢者が会社に残るかわりに日本中で年収500万円程度の中堅サラリーマンざっと40万人のリストラが必要になる計算なのだ。
みずほ総研の堀江奈保子・上席主任研究員が語る。
「企業にとってより必要なのは現役世代の社員なので、65歳までの継続雇用が導入されても、その分、若い社員をどんどん早期退職で切って失業率が極端に増えるとは考えにくい。ただし、高齢社員の人件費を抑制しなければ、若年層の雇用抑制や現役世代の社員の賃金抑制につながる可能性は否定できません。
企業にすれば、座っているだけで高給を取っているような社員の定年を延長するのではコストアップにしかならない。雇用延長後の社員に年収300万円を払うとすれば、1000万円の売り上げの仕事ができるような高齢者の人材育成の企業戦略が重要になるでしょう」
定年延長後は「会社に残って後輩にアドバイスをすればいい」程度に考えているととんでもない、というわけだ。
65歳定年時代のサラリーマンは、年金がもらえないからやむを得ず給料ダウンを忍んで雇用延長したのに、会社では再教育を受けさせられ、現役社員からは「あの先輩のおかげで給料が上がらない」と厄介者扱いされ、冷ややかな視線を浴びながら5年間の会社人生を過ごすことになりかねないのだ。
※週刊ポスト2013年2月8日号