安倍晋三首相が打ち出した経済政策、いわゆる“アベノミクス”を好感して日本の株式市場は急回復している。
しかし、いくら株価回復、景気の持ち直しを政府や財界が喜んでも、その恩恵が一般家庭に巡ってくるのはまだまだ先の話である。
そんな中で、政府は4月1日から自動車の自動車損害賠償責任保険(自賠責)の保険料を引き上げる。普通自動車は約3000円アップ(2年契約)、軽自動車は約4400円アップ(同)、平均13.5%の大幅値上げだ。自賠責保険料は一昨年にも平均12%(普通車約2500円)値上げされており、わずか2年で6000円近くも増額された。
自動車と二輪、原付の保有者に強制加入を義務づける自賠責は、死亡事故で最高3000万円、負傷で最高120万円の保険金が下りる国の制度だ。金融庁は値上げの理由を「保険金の支払いが増えて収支が悪化したから」と説明し、今年度は1440億円の赤字になる見込みだと発表している。
だが、交通事故の発生件数、負傷者数はともに2004年以来減り続けている。死亡者数は12年連続の減少で、過去最高だった1970年の4分の1に減っている。それなのに、なぜ、値上げなのか。
もともとこの自賠責保険は「役人の掴みガネ」として使われてきた。保険料は車検の際に損保会社を通じて徴収されるが、その6割は国の自賠責特別会計に再保険料として積み立てられ、ピーク時の積立金は2兆円にのぼった。そのため「保険料取りすぎ」との批判を浴びて再保険制度は2002年に廃止され、積立金はユーザーに還元されることになった。
『特別会計への道案内』の著者・松浦武志氏(特別会計を改革する会代表)が指摘する。
「政府は2008年に積立金の一部で自賠責保険料を値下げしましたが、わずか3年後から値上げが始まった。そんなに短期間に2兆円を使い果たせるはずがない。
今回の値上げは役人の天下り先に使う金を確保するためです。自賠責特会は現在、国交省の自動車安全特別会計に統合され、積立金の運用益から同省の天下り先の独立行政法人・自動車事故対策機構に約70億円が交付されているのをはじめ、毎年130億円あまりが補助金や研究機関への寄付など保険金支払い以外に使われています。積立金を温存して交付金を維持するために、保険料値上げするわけです」
自賠責の保険料は、国とは別に徴収窓口である損保やJA共済も運用しているが、その運用益からも複数の天下り団体に助成金がバラ撒かれている。
※週刊ポスト2013年2月8日号