首都圏では中学受験の季節を迎えている。2月1日は東京と神奈川の中学校の多くが入試を実施する天王山だ。
毎年多数の東大合格者を輩出する開成や桜蔭だけでなく、大学受験対策に熱心な新勢力の渋谷教育学園渋谷や、慶応普通部、早稲田実業といった有名私大の付属などの試験日でもある。
昨年行われた複数の中学受験模試のデータを総合し算出した推計値をみると、今年も明らかな傾向がある。
「2012年に続き2013年の受験でも、大学付属への志願者数が減っています」と指摘するのは、森上教育研究所を主宰する教育評論家の森上展安氏だ。
推計値によれば、付属中全体の志願者は対前年比10%減少だった昨年からさらに減って5%減程度になる見込みだ。
名門とて例外ではない。慶応でさえ今年も減少傾向のまま。早稲田高等学院は2年連続で10%以上の大幅ダウン。そして、GMARCHと呼ばれる早慶、上智に次ぐ人気私大グループ、学習院、青山学院、立教、中央、法政の付属も前年比で減少しているところがほとんどなのだ。
大学へ内部進学できると人気だった付属中学の求心力低下は、昨年から目立ち始めた傾向で、2008年のリーマンショック以降、保護者の収入増がのぞめなくなっていることが大きな要因だと見られている。中学受験は塾へ通うなどの準備期間が2~3年かかるため、不況の影響が時間差であらわれるのだ。
また、付属校は授業料が高額なところが多い。東京都が発表した資料を見ても、初年度納付金(総額)など合計額上位5校のうち4校が大学付属である(2012年12月7日発表「平成24年度 都内私立中学校の学費状況」より)。
例えば早稲田高等学院の初年度納付総額は142万1500円(※2013年度入学生の場合。寄付金・学校債をのぞく)にのぼる。この金額が、受験志願者数の減少にダイレクトに響いていると見られる。
節約志向は入学金や授業料だけでなく、受験費用にも及んでいる。以前は珍しくなかった5、6校の併願も、今では2、3校が平均的だという。
「東日本大震災がもたらした影響も大きい。大学の付属校というのはブランドを求めて入学するケースが多かったため、通学が広域にわたっていた。ところが震災以降、遠くから時間をかけて通うのは敬遠されるようになっています」(森上さん)
不景気と先行き不安な世相の影響も見受けられる。折からの就職難のためか、より就職に有利な、トップクラスの大学への進学実績を重視した受験校選びにシフトしている。
「中堅クラスの付属校よりも、大学受験指導に熱心な新興の渋谷幕張や栄東、浦和明の星などに人気が集まっているのも、父兄の志向のあらわれです」(進学塾関係者)
数年前、合併や新設などで大学が中学を次々と開設した時期には、銘柄付属と呼ばれる中学校の存在感が増した。18歳人口が激減し始める“2018年問題”をどう乗り切るか考えた大学が、少しでも多く入学予定者を確保したいと付属中学を増やしていた。しかし今は、付属というだけでは受験生を引き留めておけなくなっている。
一方で、付属中学でも受験生からの支持を集めている学校がある。神奈川の難関校、聖光学院の名物教師だった森英人氏が2010年から指導にあたっている中央大学付属横浜山手(※2013年4月から中央大学附属横浜へ名称変更)だ。縁故合格にまつわる不祥事があったにもかかわらず、今年も大変な人気ぶりだ。
「前年比2割増の志願者数で神奈川の人気を独り占めといった感じです。3年前から中央大学という就職や資格取得への信頼が厚いブランド力が担保された上に、他大学への進学実績もよい。近年は中学受験においても前年の東大を始めとした難関大学の合格者数が人気に直結するような傾向が出てきています」(前出・進学塾関係者)
安倍内閣は教育資金の贈与税を1500万円まで非課税にする制度を創設したが、付属離れの傾向は変わらないと見られる。
「おじいちゃんおばあちゃんのお金をあてにしやすくなることはプラスですが、両親の収入が増える見込みが立つくらい景気がよくならないと、外部への進学実績が少ない付属中学敬遠はしばらく続くでしょう。付属以外でも、ユニークな校風より官僚を多く輩出するような手堅いタイプの進学校が好まれているのも最近の傾向です。同じ難関校でも、麻布より開成、白百合より豊島岡が人気を集めています」(森上さん)
小さき戦士の最前線は、今年も熾烈だ。