麻生太郎・副総理、石破茂・自民党幹事長、山谷えり子・政府開発援助特別委員長……いずれも安倍政権の中枢を担う保守政治家たちである。実は、彼らにはある共通点があることをご存じだろうか。
答えは、「クリスチャン」だ。国内の1%に満たないキリスト教徒が、なぜ政界にこれほど多いのか。その謎を追った。
キリスト教年鑑によれば、日本国内のキリスト教信者や聖職者は107万人で、人口比にしてわずか0.845%に過ぎない(2012年)。政治家のクリスチャンは、この比率からすると明らかに多い。
クリスチャンの文芸評論家、富岡幸一郎・関東学院大学文学部教授が分析する。
「人口ではわずか1%に満たなくても、高等教育を受けたエスタブリッシュメントにクリスチャンが多いからです。明治期にキリスト教が解禁された後、札幌農学校に赴任したクラーク博士の門下で内村鑑三氏や新渡戸稲造氏がクリスチャンとなり、彼らが後に旧制一高(東京大学教養学部の前身)で教職に就いたことで、旧帝大のエリート層にはキリスト教が定着します。
一方、関西ではNHK大河ドラマ『八重の桜』の主人公・新島八重の夫となる新島襄氏が同志社大学を設立してキリスト教を布教します。戦後、アメリカ文化とキリスト教が密接に結びつく中、そこで高等教育を受けた人々が政界に進出し、その結果としてクリスチャン政治家が増えていった」
麻生氏の祖母、雪子さんは牧野伸顕・元外相の娘にあたるが、牧野氏は新渡戸氏を旧制一高の校長に推薦した人物だ。石破氏の曾祖父、金森通倫氏は同志社で新島氏からキリスト教の洗礼を受けた。麻生、石破両氏は、明治期に広がった“東西のエスタブリッシュメント系クリスチャンの本流”に属しているといえよう。
また、新渡戸門下だった南原繁氏、矢内原忠雄氏というクリスチャン教育者が、戦後立て続けに東京大学総長に就いたこともあり、東大出身者、とりわけ官僚にはいまでもクリスチャンの割合が高い。
民主党のクリスチャン議員はいう。
「国会では、米国でクリスチャン議員がやっている『朝の祈りの会』を日本でやろうということで始まった会を月一回で開催しているが、ここには議員だけではなく、財界人や官僚OBも集い、かなり幅広い情報交換をしている。
財務省OBが事務局のような役割を担い、聖書の勉強だけではなく、政策の議論もするし、大震災のときは支援についても話し合いました。クリスチャンではないが谷垣さんもこの会の中心で、キリスト教をきっかけにした一種のサロンのようになっています」
※週刊ポスト2013年2月1日号