EV(電気自動車)において、日本は圧倒的な先進国である。が、日産自動車のリーフや三菱自動車のi-MiEVの販売が当初予想よりも伸び悩んでいるのは、車体価格が高額な上、航続可能距離が短く、充電環境に不安があるため、とされる。
EVやプラグインハイブリッドの統一規格を目指すCHAdeMO協議会(会長は志賀俊之日産COO)は、1月22日までに全世界のEV用急速充電器が2000基を超えたと発表している。内訳は日本国内が1361基、EUが601基、米国が154基。急速充電器は約30分で8割の充電を可能にするもので、クルマの“行動半径”を決定する、いわばインフラに当たる。
1年前には急速充電器は約1000基しかなく、ほとんどが国内だったというから、この1年の進捗ぶりは評価されてしかるべきかもしれない。チャデモ協議会は国内の自動車メーカーとルノー、プジョー、シトロエンのフランス車勢、電力会社、情報通信会社を含めて26か国430以上の企業が参加する団体だ。
「急速充電器の規格をめぐってはメルセデスベンツやBMW、フォルクスワーゲングループのドイツ車勢、GMとフォードという米国車勢がチャデモとは異なる独自規格『コンボ方式』で開発を進めることを決めている。電気自動車のシェアに大きく影響しかねない規格をめぐって“政治的な綱引き”が続いていくなかで、先行するチャデモ側は実績をきっちりPRしたい意図もあるようです」(業界関係者)
日産は今年に入ってリーフに廉価版グレードを設定し、上位グレードも車両価格を引き下げた。チャデモ協議会は来年までに急速充電器を4000基に増やす計画で、電気自動車普及のブレークスルーを期す。
とはいえ、価格を下げて急速充電器をただ増やせばいいかというと、そうでもないようだ。日産リーフのオーナーである都内の会社員(40)が語る。
「私は週末に東名高速を使って御殿場方面へ出掛けることが多いのですが、ここのところ、特に晴天の行楽日和などには、サービスエリアにある急速充電器が“渋滞”するようになっています。ひどい時には3台待ちなんてこともある。他の急速充電器に向かおうにも現状はそうそう近くにあるわけでもないし、ギリギリで辿り着いたような時は動くに動けない。1台につき30分として、自分の充電が終わるまでに2時間かかるなんて場面に遭遇したら、途端に電気自動車で遠出する気が失せてしまいますよ」
週末にはレンタカーのリーフでドライブを楽しむ人も多いが、なかには充電の“作法”に慣れないためか、渋滞を悪化させてしまうこともあるらしい。
「急速充電はバッテリー容量の8割に達するか30分が経過すると自動的に切れることになっていて、アプリを通じてオーナーには『充電完了』のメールが届く。けれど、たまに充電が終わっているのにどこで何を食べているのか、クルマのところに全然帰ってこない人がいたりします。列の後ろで待たされている側はイライラすることこの上ない」(前出のリーフオーナー)
現在日本で走る電気自動車は約3万台。まだまだマイナーな存在であるため、大きなトラブルに発展してはいないようだが、今後の普及を考えれば、“充電渋滞”は大きな障壁となりかねない。
自動車業界に詳しい経済ジャーナリスト・福田俊之氏が指摘する。
「チャデモ協議会や自動車メーカーは、オーナーへのサポートプログラムなどを通じてどのルートを通ったらどのくらいの電費となるのか、どの場所でどの時間にどれくらいの充電ニーズがあるのかなどについて膨大なデータをオンラインでストックしています。必要なところには充電器を速やかに増設するなどして細やかなサービスを提供していかないと、ユーザー側の信頼を得られないでしょう。
電気自動車に乗ったことのある人はたいてい、燃料代の安さ、スポーツカー並みの鋭い加速性能に驚きます。自分たちが実はそれほど長い航続距離を必要とするものでもないということも再認識する。それだけに、充電にかかる“ストレス”をどれだけ軽減できるかが、普及のポイントになるともいえるのです」
全国石油商業組合連合会の試算では、採算性の問題などを理由に2012年度中に閉店するガソリンスタンドが全国で2000店を上回ると見られている。原油高の傾向が続けば、電気自動車のコストパフォーマンスやユーザビリティが改めて注目されることが見込まれるだけに、質を伴ったインフラ整備が急務だ。