名医が的確な診断で薬を処方した場合も、ヤブ医者が的はずれな薬を処方した場合も、窓口で請求される金額は基本的に同じ……というのは日本の医療制度の大問題のひとつだ。こうしたおバカ規制の背景について、政策工房社長の原英史氏が解説する。
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病院に行った時に窓口で支払う料金は、よく知られているように現役世代は3割負担、70歳以上の高齢者は1割負担。保険診療であれば残額は健康保険から費用が出される。自治体によっては、小中学生などを対象とした医療費助成を行なっており、自己負担が軽減ないし無料化されている地域も少なくない。
窓口で支払う代金は1000円程度だからと軽い気持ちで支払っても、実は何倍かの金額の請求書が健康保険組合などに回されるわけだ。
その金額の算定は、「診療報酬点数表」に基づいてなされる。最近は病院に行くと診療明細書をもらえるので見たことがある人も多いだろうが、例えば「初診料 270点」「血液化学検査 102点」といった具合に点数が記載され、この1点が10円に相当する。合計した点数に10をかけたものがトータルの代金であり、そのうち3割ないし1割を窓口で支払う。
この点数表は、国が一律に設定する。どの地域でどの病院に行っても同一の「公定料金」だ。その根拠となるのが、「健康保険法」(76条2項)である。これに基づき、厚生労働省が診療報酬点数を定め告示する(2年に一度改定)。
診療報酬点数表に基づく「公定料金」の世界では、診断や処置が上手でも下手でも値段は変わらない。「診察」「検査」「処置」「薬の処方」といった行為をこなすことで点数が加算される仕組み(出来高払い方式)で、「治療の成果」や「サービスの質」は考慮されないからだ。
世の中では普通、技能が高い人にはそれに応じた報酬を払う。腕のよいシェフがいるレストランなら高い値段を払っても納得する。ところが病院の場合、入院の差額ベッド代などの例外を除き、原則として値段は同じ。
もちろん医療の場合はレストランなどと違い、患者にとって病気になるのは突然の非日常的体験であって、“何軒も食べ比べる”ことはできない。そのため、「標準料金」を示すことには意味があろう。
だが、例えば「この治療は、標準料金では××円だが、この病院では××件以上の経験を積んだ特に技能の高い医師が治療にあたるので、その1.5倍」といったことを謳う病院があってもよいのでないか。追加料金分は自己負担としても、そうした病院を選択する患者は少なくないはずだ。
ところが、こうした保険外の「自由診療」と「保険診療」を組み合わせて利用する、いわゆる「混合診療」は我が国では原則として認められない。「公定料金」を逸脱した途端、すべて「自由診療」として患者の全額負担になってしまうのだ。
※SAPIO2013年2月号