麻生太郎・副総理、石破茂・自民党幹事長、山谷えり子・政府開発援助特別委員長……いずれも安倍政権の中枢を担う保守政治家たちがクリスチャンであることをご存じだろうか。国内の1%に満たないキリスト教徒が、なぜ政界にこれほど多いのか。
保守系の政治家とキリスト教を結びつけるキーワードが、「反共」である。戦後の日本政界には、欧米のMRA(道徳再武装)運動が一定の影響力を持っていた。米国のブックマン博士の提唱で第一次世界大戦後に始まった、キリスト教を軸とする反戦と道徳の再構築運動だが、もう一つ別の目的があった。
「キリスト教を通じて、共産主義に対する国際的な防波堤を作るという政治的側面があった。1949年に片山哲・首相がMRA世界大会に出席、1956年にはブックマン氏が来日して鳩山一郎・首相と会談していますが、両氏は当時のクリスチャン政治家の代表でした。ただ、日本では運動が広がりを見せず、冷戦崩壊後はMRAも反共的側面より人道支援や国際紛争の調停などに力を入れるようになっている」(日本のキリスト教関係者)
韓国では、戦後、反共の防波堤としてキリスト教が普及し、人口の約3割を占める国内最大宗教となっている。教会と無償の病院で信者を増やし、貧困層を中心にキリスト教の価値観を植え付けていくという欧米のキリスト教団の伝統的手法が成功したわけだが、日本では奏功せず、一部のエスタブリッシュメントにしか定着しなかった。
だがいま、その一部が世襲政治家、あるいは高級官僚として日本を動かす立場にある。クリスチャンの文芸評論家、富岡幸一郎・関東学院大学文学部教授が進言する。
「米国やヨーロッパ、そしてイスラム諸国と、いまでも世界は一神教的な価値観で動いている。日本は多神教の国だが、欧米を相手にするには一神教の世界観を理解しておく必要がある。クリスチャン政治家はその点で強みがあるし、宗教という共通点があれば相手国と話もしやすい。新渡戸氏がクリスチャンとして『武士道』を世界に発信したように、日本と世界を結びつける働きに期待したい」
※週刊ポスト2013年2月1日号