国内

柴田トヨさん 『くじけないで』書いたからと、最期まで詩作

 98歳の詩人デビューで話題になった柴田トヨさんが老衰のため亡くなった。101歳だった。
 
 1911年生まれの栃木県出身。裕福な米穀商の一人娘だったが、10代の時に家業が傾き、料理屋などに奉公に出る。20代で結婚と離婚を経験、33歳で再婚し、戦中戦後を生き抜いた。詩作を始めたのは90歳の頃。一人暮らしをする母を心配した息子の勧めからだった。
 
 飾らない言葉で何気ない日々の生活を綴り、人生の喜びを謳った作品は、新聞の投稿欄の常連となり、2010年に刊行された処女詩集『くじけないで』(飛鳥新社刊)は150万部を超えるベストセラーとなった。現在では世界各国で翻訳され、絶大な支持を受けている。
 
「話題の主になって取材が殺到したとき、体調を心配した私が、もう詩は書かなくていいからというと、母は“私がくじけないでっていっておきながら、やめるわけにはいかない”といって譲らなかったんです」
 
 長男の健一さんが偲ぶ。
 
 昨年の後半から体調を崩し、詩作がままならなくなったが、ベッドの横には、いつもノートとペンが置かれていた。年明け8日に訪れた見舞客には、気丈に振る舞っていた。
 
「わざわざベッドから起き上がってお話ししてくれました。ファンがトヨさんの詩を待っていますとお伝えすると、“また頑張って書きますね”と、最後まで意欲を見せてくださっていたのですが……」(詩集の編集担当だった五十嵐麻子氏)
 
「クリスマスも迎えられない」など、医師からは何度も危ないといわれたが、持ち前の強さで正月を迎えた。しかし20日、ついに力尽き、静かに息を引き取った。
 
「母は、“葬式は楽しくやってほしい。ケンちゃん、あんたは話が上手だから、面白い話をして皆さんを楽しませてね”といっていました。いつも優しく、前向きな人でした」(健一さん)
 
 1月24日に行なわれた告別式では、会葬のお礼に「皆様に」と題された遺作が添えられた。以下、全文。
 
 お迎えが 何回か来たけれど/口実を作って お断りしてきたの/でも私も101歳 次は無理かもしれない/私のお葬式 たくさんの人が来てくれるかしら/その時は悲しまないで/トヨさんがんばったねって/声をかけてください/その言葉を励みに/天国でもしっかりと暮らしてゆきます/皆様のご多幸を/日差しとなりそよ風となって/応援します/今までありがとうございました/倅夫婦をよろしくお願いします
 
 最後まで、ユーモアと感謝の思いをこめたトヨさんの絶唱が残された。

※週刊ポスト2013年2月8日号

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン