東大野球部は目下、どん底にある。2010年秋に早大に土をつけて以降勝利はなく、リーグ戦は46連敗中。30季(15年)連続で最下位を独走する。そんなチームに、「遥かなる一勝」をもたらすべく招聘されたのが同部OBで、都内で学習塾を経営する浜田一志氏(48)だ。浜田氏による「東大野球部再生計画」を、ジャーナリストの森健氏がリポートする。(文中敬称略)
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浜田が監督をはじめて気づいたのが、選手の不安感だった。選手と向き合っていると、「弱気の虫」が眼の奥に映る。その弱気が大事な場面でプレーに現れる。
「ここぞという時にポロっと失敗し、勝利を逃してしまう。技術の問題もあるけど、その前のメンタルで自滅しているんです。だからいま必要なのは、とにかく勝つ、勝てるんだという意識をもつこと。それはいまの時期から養うことでもあるんです」
その意識涵養のために導入したのが、徹底した基礎基本の練習メニューだ。筋トレでもノックでも基本中の基本のメニューを繰り返し反復する。選手にとって練習がおもしろくないのは十分承知。だが、あえてそれを命じている。
「受験勉強もそうだけれど、ミスをしないことが勝利の秘訣。逆に、試合で向こうがミスをしたときには、一気に畳み掛ける力をつける。それには基礎基本が身についていないといけない。基礎基本がしっかりしていれば、必ず本番で活かされる。身体もメンタルも基礎基本が重要なんです」
こうした考え方は自身の受験指導の経験も影響している。塾を開業時、生徒として目していたのは、偏差値の高いハイクラスの生徒だった。だが、現実にはそうした生徒は大手の予備校に流れてしまっていた。焦った浜田は開業翌年から戦略を転換。勉強の苦手な子を主な対象にし、基礎基本を徹底する勉強法にした。真逆のやり方だったが、この方針が功を奏した。続々と好結果が上がりだした。
「一回難題を解けたとしても、次に解けるかわからないようでは、本当の力とは言えない。むしろ徹底的に原理原則を身につけるほうが、ミスをしないので成績が伸びる。手の届かないものより、手が届きそうなところを固めていく。こうした戦略は野球でも同じことだと思うんです。また、結果がよくなれば、やる気も一層上がる。メンタルにもいいんです」
※週刊ポスト2013年2月8日号