たとえ相手の耳に痛い話題であろうと、さらりと聞いて本音を引き出し、いつの間にか笑顔を誘う――著書『聞く力』(文春新書)が昨年最も売れた本となった阿川佐和子さんは、“対談の魔術師”だ。が、そもそもの彼女は、人の話を聞くよりも、つい自分のことばかり話したがる人だったという。59才、独身。その人生のなかで、阿川さんはいかにして「聞く力」を身につけたのだろう。
そこでひとつ気になるのは、女性の話し好き。一般に女性は他人の話を聞かない、聞くのが下手だといわれる。確かに女性が寄ると、「ねえねえ、聞いて」で、自分がしゃべるばかりだ。
それについてどう思うかと話を振ると、
「私自身、おしゃべりだから、聞くことよりもついついしゃべってしまうんです。アガワ、『聞く力』を読んだほうがいいよって、言われてます(笑い)」
と阿川さん。そして、テレビの仕事を始めて2、3年目に出会った作家の故・城山三郎さん(享年79)にインタビューしたときの思い出を語ってくれた。
「気がつくと、私ばかりが調子にのってしゃべっていて、城山さんは“ああ、そう。それで?”“ふーん”“面白いねえ”とはさむだけで、にこにこしながらひたすら聞いてくださっているんです」
ホステス役の阿川さんばかりがしゃべって、対談は大失敗。終わってから、なぜ城山さんの前であんなにしゃべったのだろうと考えてしまったという。
「それは、城山さんが実に面白そうに私の話を聞いてくださったからと気がついた。城山さんの包容力が、私をあんなにしゃべらせたんですね。『話し上手』『聞き上手』という言葉が昔からあるけれど、聞き上手になることの大切さを、城山さんを通して知りました」
以来、自分が聞き手になるときは、質問は少なく、上っ面な受け答えはしない、安易に「わかります」とは言わない、相手の目を見て話すことなどを心がけているそうだ。聞く力とは、自分がよくしゃべることではないのはもちろん、質問をたくさんすることでもないのだ。
聞くときの姿勢もとても大事だという。
「相手より高い視線から話をしたり、相手の前で腕を組むのは避けたほうがいい。こうなると、やり取りが剣呑になって、『いや、それは違う!』と言って、ついつい食ってかかりがち。まずは聞いていますよ、と本当に聞くかどうかはともかく(笑い)、態度で示すことから始めたほうがいい」
謙虚な姿勢が、聞き上手への一歩となるようだ。
「今はコミュニケーション能力が問われている時代ですから、自分から発信しなきゃいけないとか、どういう言葉を使って話すべきだとか、さかんに言われていますね」
実際に、弁が立つとか、説得力があるとか、話がうまい、という人の評価は高い。
「そんな中でノンフィクション作家の吉永みち子さんが、『聞く力』を読んで、相手の話をひたすら聞くということもコミュニケーションの一つだというふうに評してくださったんですね。それを聞いて、著者の私は、そうだったのかと、コミュニケーションは自分からしゃべることだけではないんだ、まさに聞くことなんだと知ったんです(笑い)」
※女性セブン2013年2月14日号