昨年、開局54年にして初めて年間視聴率1位(プライム帯=19~23時)を獲得したテレビ朝日。
流行に乗りすぎず、軸となる看板番組を大事にし続けてきた。例えば、『ニュースステーション』(1985年~)は、2004年に『報道ステーション』となった後も手堅く視聴者を獲得。平日の22時台に13~15%稼ぎ出せる番組は、低視聴率時代の今となっては貴重だ。その前後のドラマやバラエティーにも波及効果を与えている。
テレ朝流の「乗りすぎない哲学」は、バラエティーの放送内容にも見られる。
『お試しかっ!』や、さまざまなジャンルのランキングを発表する『お願い!ランキング』で取り上げるテーマは、コンビニの人気スイーツや、ファミレス店、焼き肉チェーン店、ファストフード店などの定番メニューなど。一般大衆向けの「生活に近いテーマ」だからこそ、つい見てしまうという人は多い。
テレビ朝日編成制作局制作1部(バラエティー担当)の藤川克平部長が言う。
「今までのグルメ番組は、高級店を特集する方向で考えがちでした。“憧れの世界でないと、わざわざテレビで見ないだろう”という発想です。でも、視聴者の皆さんが本当に知りたいのはもっと身近なことではないか、とスタッフは考えました」
『お願い!ランキング』の放送が始まったのは2009年。リーマンショック後に、サラリーマン家庭の給料が大幅ダウンしたころだった。
もっとも、テレ朝も攻めるところは攻めている。元プロデューサーの皇達也さんはサッカー中継への先行投資を挙げる。
「多額の放送権料(推定100億円)をかけて、2001~2008年のアジアサッカー連盟主催700試合の地上波独占放送権を獲得しました。“賭け”でしたが、結果的に、視聴者のかたに『サッカーはテレ朝』というイメージを持ってもらうことができました」(皇さん)
2008年以後もテレ朝は独占契約を更新。昨年放送したW杯ブラジル大会のアジア最終予選はすべて30%を超え、視聴率競争に大きく貢献した。
世の中の流行や成功体験に“乗りすぎず”、独自の歩みで現在の地位を築いたテレ朝。だが、藤川さんは、今後も挑戦し続けることが必要だと言う。
「たまたまプライム帯でトップになっただけで、今後もチャレンジし続けることが大事。人気番組の『アメトーーク!』でも“こんなテーマありなの?”と常にチャレンジしていますよね。失敗したら素直に反省して新しいチャレンジをする。そこからまた面白い企画が生まれてくるのだと思います」
そして、これからの番組づくりに積極的に活用していくのが、視聴率だけにとらわれない、番組の新しい評価基準。それは「視聴“質”」だ。前出・藤平さんが解説する。
「テレ朝は慶応大と共同で、『リサーチQ』というネットを用いた視聴者調査を何年も前から行っています。これは数字だけを扱う従来の視聴率と違い、視聴者が番組の感想を書き、『どこが面白かったか』などのアンケートに答えていく調査。視聴の“質”を知ることができるリサーチで画期的な取り組みです。こうした試みは他局でも産声を上げつつあります」(藤平さん)
価値観の多様化した時代に「視聴率が取れさえすればいい」という前提がそもそも間違いだと藤平さんは指摘する。
※女性セブン2013年2月14日号