富士通発のペットグッズという意外な組み合わせが話題を集めている。世界的ICT企業が挑んだのは「ペットの健康管理」。愛犬用歩数計『わんダント』だ。立案したのはペットを愛する辣腕女性社員だった(取材・構成/中沢雄二・文中敬称略)。
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富士通でパソコン『FMV』シリーズのアプリケーションソフトやOSのカスタマイズなどを担当してきた三ッ山陽子・コンシューマビジネス統括部マネージャーは子供のころからペットと生活を共にし、その存在は既に家族同様のものとなっていた。
「ペットの犬や猫の数は2150万頭で15歳未満の人間の人口よりも多い。飼い主にとってペットは家族と同じ。いつかペット関連の製品を作れないだろうかと考えていました」
3年前、チャンスがめぐってきた。同社が次期マネージャー候補を対象にして行なう社内研修制度「ビジネス戦略提案ワークショップ」だ。
公募で異なる部署から構成される6~7人でチームを構成。自社の技術を使った新規事業の提案を行なうというプログラム。チームには商品企画の三ッ山以外に営業、デザイン、ソフト事業部などから6人が集まった。社内研修とはいえ、他のチームには絶対に負けたくなかった。そのためには「どこよりも抜け出た提案」をしなければならなかった。
同社では既に携帯電話に加速度センサーを搭載し、健康管理に役立てるという技術を確立していた。歩数や運動量などを計測して、サーバーにデータを送信するというものだ。
三ッ山はその技術をペットに応用できないかと考え、他のメンバーに提案。すると、どのメンバーも過去にペットを飼っていたり、ペット好きなことがわかった。
「家族同様に扱われるペットなのに自社に関わるサービスや商品がないのはおかしい。富士通の技術でペットの健康を管理できる商品を作りたい──」
三ッ山の提案は他のメンバーにも受け入れられた。課題はいくつもあった。
(1)片足ずつ歩を進めるだけではなく、両足を同時に着地する場合もある犬の歩数をどのように正確に測るか。
(2)体型、足の長さが異なるのをどう処理するか。
(3)歩数を測ることが犬の健康管理に本当に役立つのか。
自らの愛犬も含む数百匹の犬の歩行データを収集し、獣医の意見も求めた。その結果、どちらか一方の前足が着地するごとに「1歩1歩」と数えることにするなど、課題はひとつひとつクリアされていった。
獣医からは、例えば、体を震わせる回数があまりに頻繁な場合は、皮膚炎を疑うことも可能なことなど、体調変化を見抜くポイントも学んだ。
目標とした重さは20グラム以下。このために設計部署にレイアウトの変更を何度も依頼した。犬種によりデータに差異が出ないか、様々なパターンの検証がほぼ毎日続いた。
2012年11月、いよいよ発売が開始された。
「利用者が増え、みんながデータをアップしてくれれば、今後予想もつかなかったペットの新たな健康管理法が見つかるかも」
※週刊ポスト2013年2月15・22日号