ベストセラー『がんばらない』の著者で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏は、チェルノブイリの子供たちへの医療支援などに取り組むとともに、震災後は被災地をサポートする活動を行っている。その鎌田氏が、アーネスト・ヘミングウェイが『キリマンジャロの雪』(新潮文庫)などで描いた地、アフリカ5か国を訪問した。
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学生時代、ヘミングウェイの小説を読み、いつかキリマンジャロに行ってみたいと思っていたが、今回その機会に恵まれた。1月4日から3週間、私たちの祖先、ホモ・サピエンスの足どりを辿ってアフリカ5か国を回ってきたのだ。
5895メートル。アフリカでいちばん高い山、キリマンジャロは、タンザニアにある。ヘミングウェイは、この地と、ここに住むマサイ族に魅せられて、長く逗留している。僕もまた、「われわれはどこから来たのか」と360万年前の猿人や原人を追っかけているうちに、マサイ族に魅せられた。
タンザニアの道路を車で走っていると、顔に黒と白のペインティングを施し、頭には羽飾りをつけた少年たちが通り過ぎた。ガイドに「彼らは何をしているのか」と聞くと、「割礼ボーイ」だという。
割礼は、宗教的な儀式、風習としてユダヤ教徒のほか、アフリカの一部部族の中に残っているが、マサイ族では、いまだに10歳前後の女の子と15歳の男の子に割礼の習慣を残している。
実は、タンザニアの法律では、これを禁止している。特に女の子の割礼は厳しく禁止しているらしい。男の子の割礼は、ロコ・ドクターという伝統医療を行なう医療者が割礼をしていると聞いた。
男の子は数カ月の準備期間を経て、マサイとして生きていくための知識を身につける。その間、邪悪な目に遭わないようにと、顔にペイントしているそうである。普通、食事のとき以外、家にはいられないので、オチンチンの傷が治るまで、この格好で外をウロウロしているのだという。この間は女の子にも相手にしてもらえないので、行き場がないのだ。
傷が治れば、森に入る。一人前のマサイ族になるために、薬草の勉強をしたり、戦いを覚えたりして過ごす。ときには100キロメートルを移動することもある。ンゴロンゴロの大草原を走るマサイ族を見た。鍛え抜かれた足で、ものすごい速さで走っていた。
※週刊ポスト2013年2月15日号