プロ野球もキャンプ入りし、盛り上がりを見せているが、「国民的スポーツ」と称されるプロ野球で起こった「大事件」の裏側を、当時を知る人々の証言を元に明らかにしよう。
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球界で、これほど知られた“迷言”もない。
「ベンチがアホやから野球がでけへん」
1981年シーズン途中で、阪神・江本孟紀が引退するきっかけとなった一言だ。8月26日、先発の江本は8回に3連打で2失点し1点差に追い上げられ、なお2死二塁の局面を迎える。
「次は8番打者。普通は敬遠か投手交代かでしょう。内野陣が集まったが、ベンチを見たら監督の中西(太)さんがおらんのですわ」
こう語るのは当の江本氏。
「中西さんは“肝心な時に逃げる”というので有名だったが、まさかこの場面でいなくなるとは思わなかった(苦笑)。セオリーなら一塁が空いているから敬遠。仕方ないので、様子を見るために投げたボール球に、打者が飛びついてきた。
打球は外野に飛んだが、野手も敬遠だと思っていたので腕組みしてボーッと立っていた。慌てて捕りに行ってエラーして同点。この瞬間、ベンチは何をしとるんやと腹が立ったんです」
チェンジの後、代打を告げられ引き上げた際に、例の言葉が生まれた。
「“あいつは何を考えとるんや、アホか”、“ホンマ、野球ができんやろ”、という愚痴をいった。記者に聞こえるようにいったかもしれません(笑い)」
※週刊ポスト2013年2月15・22日号