尖閣諸島と竹島で日本の領土を侵犯する中国と韓国。だが、両国は東シナ海にある小さな暗礁をめぐって争奪戦を繰り広げており、不法漁業で双方に“戦死者”まで出ている。産経新聞ソウル駐在特別記者の黒田勝弘氏がレポートする。
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韓国の中国への傾斜が目立つ。日中の激しい対立のなか朴槿恵・韓国の“変身”は大いに気になる。
日本にとってショックだったのは、朴次期大統領が当選直後の各国大使との接見で、米大使に次ぎ中国大使と会ったことだ。韓中の国交正常化は1992年だが、金泳三以来、親北・左派政権だったあの盧武鉉を含め最近の李明博まで、いつも米国の次は日本だった。
中国傾斜の背景は簡単だ。中国の国力が増大して、相対的に日本の地位が低下したからだ。GDP(経済規模)で日本が中国に追い抜かれた(2010年)ことが大きく作用している。そのころから国名を挙げる順序は「米日中」ではなく「米中日」になった。今や韓国では、世界は米中で動くという「G2」論が幅を利かせている。
この韓国の“変わり身”の早さは、大陸にぶら下がった半島国家の地政学的環境からくる身の処し方であろう。
しかし、中国傾斜といっても歴史的経験からして、やはり国境を接する中国は「恐い」。首都ソウルは元、明、清、共産中国までその軍事力で踏みにじられた歴史を持つ(朝鮮出兵の秀吉軍に対抗し派兵された明軍も相当な乱暴狼藉をはたらいた)。
したがって中国との領土・領海問題も日本以上に複雑で厳しい。陸では中朝国境地帯の領土問題が波乱含みだ。古代・高句麗の歴史は中国史か韓国史かという「歴史領土問題」は将来、間違いなく現実の領土紛争に発展するだろう。
海ではすでにガチンコの衝突が始まっている。漁業紛争では“戦死者”まで出た。不法操業の中国漁船と韓国海洋警察が死闘を展開中だ。一昨年は海洋警察隊員が中国漁船員に刺されて死亡、昨年は中国漁船員が海洋警察のゴム弾で死亡した。
南北が軍事衝突している「海の火薬庫」ソウル北西の黄海はワタリガニの宝庫でもある。ここにも外貨がほしい北朝鮮から操業権を買い取った中国の大漁船団が出漁。韓国は中朝を相手に両面作戦を強いられている。
南部の済州島沖の海中暗礁「離於島」(中国名称は「蘇岩礁」)は韓中双方の領海外だが、互いに「自国のEEZ(排他的経済水域)内にある水中暗礁」と主張。付近に海上ヘリポートを設置し先手を打った韓国に対し、中国は常時、抗議の監視船を航行させ威嚇している。
中国は昨年、自国領と主張する海域に対し、衛星を利用したリモートセンシング監視を行なうことを決定し、その海域に離於島が含まれていたため韓国側は猛反発した。
離於島周辺海域では韓中のEEZが重なる。その際は中間線で“支配水域”を分けるのが国際慣例だ。しかしそうなると離於島が韓国側に取り込まれるため、中国は中間線画定交渉を拒否。中間線を無視して勝手に漁船を繰り出している。
※SAPIO2013年3月号