2月10日は、中国における旧暦1月1日にあたる。「春節」と呼ばれる中国の正月休暇の中核となる日で、現地は終日爆竹の音と煙に包まれる。これは中国の年中行事でも1、2を争う大イベントだ。ちなみに、毎年日程が異なり、中国国務院が定めることになっている。
国家規模の休日だけに休みの期間も長く、最短でも1週間、ある国営企業では15日間もの休みが設定されているというから、仕事のほうは大丈夫なのか、と余計な心配をしてしまう。
春節期間の中国は、まさに民族大移動で、交通機関はどこも人だらけ。都市に出稼ぎに来ている「農民工」と呼ばれる地方出身者たちが、一斉に故郷を目指すからだ。列車やバスの切符売り場はチケットを求める人が行列するが、手に入らない人も多く出る。
この、春節前後の交通事情を総称して「春運」と呼ぶ。多くの労働者たちは、すし詰めの列車に何十時間も揺られて帰省するわけだが、それはかなり過酷なもの。しかし、長く離れ離れになった家族、とりわけ幼いわが子と離れ離れで暮らす人々も多く、その足取りは軽い。
正月だからといって何をするでもないが、彼らは自宅で家族が全員揃って新年を迎えることを何よりも重要視している。「家族を大切にする」といわれる中国人の素顔が垣間見える。
落語の「薮入り」を連想させる中国の春節だが、中国人を雇用するビジネスマンにとっては頭が痛い問題にもなっている。工場を経営する日本人ビジネスマンが耳打ちする。
「毎年、春節明けになっても戻ってこない従業員がけっこう出るんですよ。電話をかけると、このまま辞めさせてくれ、という。理由を尋ねると『家里有事(実家でちょっとありまして……)』と口を揃える。本当かどうかわかりませんけれどもね」
その背景には、中国内陸部の発展がある。地方でも人手不足が深刻化し、雇用条件もよくなっているため、帰省者に地元企業から多くの声がかかるのだ。里心がついた労働者が、春節休みをきっかけに、近くて条件のいいところに転職してしまうわけだ。
前出の工場経営者は昨年、春節前に支給していたボーナスを、休み明けに変更するなどの対策を取ったというが、それでも戻らなかった従業員が少なからずいた。
中国の「新年」は、経営者と従業員の知恵比べから始まるようだ。