佳境に入ったバレンタイン商戦。「本命チョコ」「義理チョコ」に加え、昨今は「友チョコ」「逆チョコ」「自分チョコ」などが広がり、バレンタイン文化が多様化しつつある。株式会社ネオマーケティングの調査では、「チョコレートをあげる」と答えた女性は、昨年と比べて6.8%増加した。
こうした広がりを受け、異業種の参入も活発だ。大手百貨店では、バレンタイン用に、ネクタイや財布などの雑貨類の品ぞろえを強化。ホテルでは、カップル向けのみならず、家族や女性同士で楽しめるプランを積極的に打ち出している。
例えばホテル日航東京は、チョコレートを使ったスパプログラム「チョコレート・トリートメント」や、子供と一緒にチョコ作りを体験する「ママ友パーティープラン」などが好評だという。いずれもバレンタインを機に、低迷する個人消費を少しでも底上げしたいという狙いが見え隠れする。
そんななか、女性たちで賑わう百貨店の特設会場の一角を占めるようになったのが、お酒コーナーだ。高級チョコレートがひしめきあう隣で、ワインや洋酒などを販売。チョコレートに合う洋酒、チョコレート味や風味のビール、オシャレなラベルをあしらったワインなど、内実は様々ながら、バレンタインギフトとしてのお酒を提案する。
池袋の西武百貨店本店にはワイン専門店「ヴィノスやまざき」や、アイスワイン専門店「カナディアンアイスワインギャラリー」などが出店し、試飲する女性たちが列をなすこともあるという。
ヴィノスやまざきは、10年ほど前から、バレンタイン・キャンペーンを展開している。シャンパンやアイスワインを、有名パティシィエが作った“ワインに合うオリジナルチョコレート”とセットにして販売。ワイン市場の好調もあって、バレンタインにワイン、という流れも定着しつつあるというが、ボジョレー・ヌーボーやクリスマス商戦には比べるべくもないという(ヴィノスやまざき広報)。市場拡大の余地は大きそうだ。
ここ数年、ワイン市場は拡大傾向にある。2010年の消費量は前年比109.3%アップ。ビールや日本酒が伸び悩むなか、奮闘していると言えるだろう。
「さまざまな業態の飲食店などでも楽しめるようになったほか、スーパーやコンビニエンスストアでも気軽に購入できるようになり、日常飲まれるお酒として定着しつつある」と、メルシャンは分析する。
その、ワイン需要拡大に一役買っているコンビニにも、バレンタインワインは登場。ローソンでは、ソムリエおすすめのバレンタインワインの予約を受け付けた(現在は終了)。目を引くのは、陶器のハートが付いた成城石井の「キャンティ・ラブコレクション」。イタリアで開催されたG8サミットのギフトでも使用されて話題になったワインだ。
バレンタイン商戦の業態拡大について、フードコンサルタント・飯田真弓氏はまず、消費者側の変化を指摘する。
「いま消費は、“モノ消費”から“コト消費”に変わりつつあります。バレンタインにお酒を買うというのもその流れの一つですね。渡しておしまい、ではなく、相手や仲間と一緒に楽しみたいという方が増えている。チョコレートは、一緒に楽しむというのはなかなか難しいですよね。その点、ワインやビールは、家族や友人、カップルでも、皆で集まって一緒に飲んだりしやすい。そういう点から、選ばれる方が増えていると思います」
昨年の年末商戦でも、モノからコトへのシフトは顕著に見てとれた。薄型テレビや自動車など大型耐久消費財が不振の一方で、忘年会やテーマパークイベントの集客は好調。モノを所有することではなく、モノを使ってどのように楽しむかが重視されつつある。
メーカー側の思惑もある。
「お酒業界のイベントは限られていますから、1200~1300億円市場と言われるバレンタインはもちろん見逃せません。もともとバレンタインデーというのは、チョコレートメーカーの仕掛けから始まったイベント。他業種が仕掛けていくのも、その成り立ちに見合っているのかもしれません」
思いを伝えるだけではなく、一緒に楽しむバレンタインに。選択肢の広がりで競争は過熱している。