アルジェリアの人質事件で安倍政権の対応は適切だったのか。1月にアルジェリアのガス精製プラントで起きたテロ事件で日本人が人質となり、死亡者が出て以来、何度も繰り返されている疑問に、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が答える。
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1月16日、リビアとの国境に近いアルジェリア南東部イナメナスの天然ガス関連施設をイスラーム過激派の武装集団が攻撃し、日本人を含む多くの人々が人質にとられた。そして、最終的に日本人の死者は10人となった。
安倍首相は、「世界の最前線で活躍する日本人が、何の罪もない人々が犠牲となり、痛恨の極みだ。(中略)無辜の市民を巻き込んだ卑劣なテロ行為は決して許されるものではなく、断固として非難する。わが国は引き続き国際社会と連携して、テロと戦う決意だ」(1月21日MSN産経ニュース)と述べた。テロと戦う姿勢を前面に打ち出した安倍首相のこの発言は正しい。
また、ミクロの観点での日本政府の対応は、決して間違えていなかった。まず、錯綜する情報に振り回されることがなかった。また、情報の評価に関しては、米国よりも英国に頼った。インテリジェンスの世界で、偵察衛星や通信傍受による情報量は米国が圧倒的に多い。
しかし、欧米諸国や日本と価値観を異にするアルジェリアの政治・軍事エリートの発想、さらにテロリストの心理状態を読み解く能力は、英国のほうが優れている。錯綜した情報を精査し、分析する英国の能力を日本政府は最大限に活用した。
さらに情勢判断については、安倍首相が、クロアチアに出張中だった城内実外務政務官を1月17日にアルジェリアに派遣し、現地本部を立ち上げた。そして、基本的判断を東京の首相官邸や外務本省ではなく、現地の城内政務官に行なわせた。
城内氏は元外交官だ。1965年4月生まれ(現在47歳)で、1989年に東京大学を卒業し、外務省に入省した。外務省ではドイツ語を研修した。しかも語学の能力が特に高い人だけが就く天皇陛下、首相のドイツ語公式通訳をつとめた。英語にも堪能だ。城内氏は腹がすわっていて、交渉力もある。今回、城内氏は、1人で日本の対外インテリジェンス機関としての役割を果たした。筆者は、所与の条件下、政府は全力を尽くしたと考える。
※SAPIO2013年3月号