1月16日、アルジェリアにあるイギリスのBPなどによる合弁企業の天然ガス精製プラントがテロリストに襲われ、40人以上の外国人を含む200名近くが人質となった。このプラント建設には日本の企業、日揮も参加しており、多くの日本人が巻き込まれ、うち10名が亡くなった。作家の落合信彦氏は、テロリズムとの戦いについて、日本政府は時代遅れだと指摘する。
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アルジェリア南東部イナメナスの天然ガス関連施設で起きたイスラム過激派AQIM(イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ)の元幹部がリーダーであるテロ組織による人質事件では、日本人スタッフ10人の死亡が確認された。
日本の優秀な技術者たちが命を落とした非常に痛ましい事件であった。だが、ただただ悲しみに暮れるだけでは彼らも浮かばれない。日本人は今回の事件から多くを学ばなければならない。
私が最も強調したいのは、今回の事件によって、テロリズムとの戦いについて日本政府が驚くほど時代遅れの考えを持っていることが浮き彫りになったという点だ。
日本はアルジェリア政府に対し、事件発生から一貫して「人命優先」の対応を求めていた。首相の安倍晋三はアルジェリア首相のセラルに電話して、「人質の生命を危険に晒す行動を強く懸念しており、厳に控えてほしい」などと繰り返していた。また、事件発生翌日にアルジェリア軍がテロリストへの総攻撃を開始すると、同じく人命優先の観点から「攻撃中止」を要請した。
日本の報道では、安倍の対応を「言うべきことを言った」と評価し、アルジェリア政府の強硬策を批判する論調が多かった。センチメンタリズムに走り、「アルジェリア軍の無鉄砲な作戦が悲劇を引き起こした」というスタンスだが、世界がテロリスト集団とどう対峙しているかを全くわかっていない。
アルジェリア政府の対応を世界各国の首脳たちがどう評価したか。毅然としたアルジェリア政府の対応を皆、肯定的に評価しているではないか。左翼政党出身のフランス大統領・オランドでさえ「最も適切な選択だった」と誉め称えたのだ。
「テロリストとは一切ネゴシエーションはしない」というのが世界の常識なのである。
アルカイダをはじめとする国際テロ組織は人質事件で得られる身代金を大きな資金源としている。「甘さ」を見せれば彼らはつけあがり、次々と事件を起こす。そのスパイラルを断ち切るためには、徹底的に叩くことが必要なのだ。
1977年のダッカ日航機ハイジャック事件では当時の首相・福田赳夫が「人命は地球より重い」などという“迷言”を吐いてテロリストの要求をすべて呑んだが、日本政府の発想はその頃から何も変わっていない。
テロリストの要求に屈することは、次なる事件を引き起こすという意味において、実は「人命優先」とは最も遠い対応なのだ。欧米諸国はそれをわかっている。日本だけがナイーブな考えにとらわれているのだ。
2001年の9.11テロ後、テロリストに対する世界の見方が変わってしまった。スピードと先手が必勝の条件となった。どちらも日本人が最も不得手な技だ。ちなみに日本人は忘れてしまっただろうが、9.11で殺された日本人は24人にのぼった。
※SAPIO2013年3月号