「いつもきれいに使っていただきありがとうございます」──初めて訪れたコンビニやファミレスのトイレでよく見かけるこの張り紙。どこか違和感を覚えないだろうか。“しゃべりのプロ”であるフリーアナウンサー・梶原しげる(62才)にはどうもひっかかってしまう。
「この言葉には意図があって、感謝というかたちで“トイレを汚すな”というメッセージをオブラートに包んでいるんですよ。こういうのを見るとね、言葉フェチで言葉ストーカーの私は気になって仕方がないんですよ」(梶原、以下「」内同)
自らを粘着質で言葉に対して偏愛的と語る梶原。20年間、文化放送のラジオアナウンサーを務め、“日本語”に並々ならぬ情熱を注いできた。そんな梶原が“今どきの日本語”の真実に迫った著書『ひっかかる日本語』(新潮社)を上梓した。
「入社当初は深夜放送を任されていたんですが、ほかの曜日のパーソナリティーはさだまさしさん、谷村新司さん、せんだみつおさんなどそうそうたるメンバー。コンサートのツアー先で起こったことなどを実に面白く語るわけですよ」
梶原はアナウンサーとはいえ、一介のサラリーマン。毎日会社にいるわけで、面白い出来事なんてそうは起こらない。そこでどうしたもんかと頭を悩ませ、これは得意分野の言葉で勝負するしかないと思ってから、日本語への執着心がますます増した。
普段何気なく使われている言葉を辞書で調べてみると、多くの言葉が本来の意味とは違う使われ方をしているのに気づいた。
「たとえば、はんこ屋さんにいって“印鑑作ってください”と言うでしょう? でもはんこ屋さんには“印鑑”というものはないんです。“印鑑”は彫るものでも、作るものでもない。紙に朱色の印がつく、“印章”のことなんですよ。普段使っている言葉なのに、実は勘違いしていたなんてことがよくあって。それ以来、なんとなくひっかかった単語や文章の意味を調べたり、考えるようになりました」
※女性セブン2013年2月28日号