スポーツ

レスリングが五輪中核競技に復活するためには何が必要なのか

ロンドン五輪では日の丸が幾度も一番上に掲げられた

 日本にとって五輪のレスリングは、昨年のロンドン五輪の金3、銅2という結果にあるように、金メダルを約束してくれる存在だ。ところが突然、2020年五輪の中核競技から外されてしまった。国際オリンピック委員会(IOC)理事をはじめ誰もが納得する五輪競技と再び認められるには、どんな対策が必要なのか。世界選手権や五輪などでレスリングを取材し続けてきたライターの横森綾さんが、中核競技復帰を目指す改革プランを提案する。

 * * *
 伝統的ではあるが時代遅れと指摘されるレスリングの問題点について、国際レスリング連盟(FILA)はこれまでも様々な対処をしてきた。ところが今のままでは、五輪にまつわる決定権を持つIOC理事や委員に、新たな努力をしていることが伝わらない。五輪の中核競技であると誰もが疑わない存在になるために、いま考えられる問題点についてひとつずつ具体的なプランを立て、はっきりと示す必要がある。

 問題点のひとつめに、よく指摘されるルールの分かりづらさがある。現状では、初めて見た人が、何によって点数が重ねられているのか把握できないまま試合が終わってしまう。

 これまでも、長いと指摘された試合時間を短くし、予選から決勝まで数日かけていた大会を一日で終えるようルール変更はされてきた。ところが、それらの変更では結局、わかりづらさを解決できなかった。そして、現在の五輪で重要視される「テレビの生中継」に向かない競技という烙印へつながっている。

 たとえ技術のやりとりが理解されずとも、タックルや投げ技など動的な動きが強調されれば、見るスポーツとしての面白さを確保できる。観客からのわかりやすさ、テレビ画面で楽しめる形式について、理事だけでなく実際に試合を裁く審判の意見や、外部の専門家を交えて検討するプランを具体的に示すべきだ。

 次に、五輪参加選手数の問題がある。

 かつて、レスリングは参加選手数が多すぎるとグレコローマンの五輪除外をIOCにすすめられたことがあった。その打診以降、フリースタイルとグレコローマン合わせて20階級だったのを16、そして14へと削減し続けた。ところが、2004年から女子が加わったことで逆に18へと増えてしまった。当然、選手数も増えている。五輪をスリム化したい最近の流れとは逆の動きだ。

 フリースタイル、グレコローマン、女子の3種目を続けようとするなら、各スタイルを5階級ずつ、計15階級へ変更するのはどうだろうか。もし階級数を変えられないなら、フリースタイルとグレコローマンをミックスさせた新種目として再出発するくらいの大胆な試みがあってもよい。これらの提案は乱暴に聞こえるかもしれないが、そのくらい大胆な変化を見せなければ、レスリング関係者以外からは理解されないだろう。

 三つ目に、国際的な普及の問題がある。

 ロンドン五輪の金メダル獲得国を眺めると、ロシア、米国、日本、イラン、アゼルバイジャン、ウズベキスタン、キューバ、韓国とユーラシア大陸の中央から東側、北米に偏っている。ヨーロッパの西側をみると、近代グレコローマン発祥の地、フランスでは競技人口が柔道に追い抜かれて低調だ。そしてアフリカの多くは空白地域になっている。

 レスリングはマットとシューズさえあれば始められるので、巨大な設備や高価な道具を必要としないぶん普及の可能性が大きい。ところが、世界の空白地域をなくそうという意欲的な動きが少ない。気づけば五輪競技としては後発の柔道やテコンドーに普及国数が追い抜かれ、180か国に届かない現状は物足りなさを感じさせてしまう。

 また、女子レスリングの普及スピードが鈍っているのも気になる点だ。もともと、レスリングが盛んな地域にはイスラム圏が多く、女性が格闘技を実践するのは難しい環境にある。だが、アフリカや南米地域にまだ空白地帯が多く、広がる余地は充分にある。

 普及の問題は、女性や子ども、障害者などマイノリティへの配慮が出来ているか、という問題とつながる。最近のIOCの判断材料には、少数者や弱者への目配りが出来るシステムも重要視されるという。

 少数者への配慮と、多様性を許容し、世界の普及へつなげるシステム作りは、レスリングにとって急務の課題だ。女子の世界で最強の日本には、ぜひ旗振り役になってほしい。

 そして最後に、FILAの組織運営が古いままで、現代のスポーツ競技としてふさわしくない印象を与えている点が挙げられる。というのも、これまで取材で関わった世界選手権を振り返っても、毎度起こる不手際の数々がいくつも浮かぶのだ。

 決勝戦の試合順変更が直前に通知されるのは当たり前。大会進行も含め、きちんとディレクションされないのが普通で、ユーロスポーツなどで配信される国際映像担当者が、現地スタッフを相手に青筋をたてて怒鳴っているのはお馴染みの光景だ。観戦チケット販売についても常に不透明で、開催地の地元民から、どこでチケットを買えるのかと聞かれることもしばしばである。

 それらの出来事を、これまではレスラーらしい大らかさと受け止めてきたが、外側から見直せばまったく違った光景に映る。観客だけでなく現役選手にとっても満足度が低い組織運営なのだ。また、様々な不具合が起きたとしても、事象や解決のアイデアを現場から役員へボトムアップするシステムが今はないことも大きな欠点だ。

 組織運営の仕組みを根本的に建て直すには、内部の人間だけでは限界がある。これからは、マネジメントのプロと組み、歴史があるから古くさい組織から、歴史があっても新しい連盟の形へと変身すべきだろう。

 ここまで大きく四つの問題点と解決プランを示した。問題は多いが、レスリングが魅力的な競技なのは揺るぎない事実だと思っている。そうでなければ、2000年以上の長きにわたり、人類が受け継いでゆくはずがない。2020年五輪競技には、まだ除外”候補”であって、確定していない。FILAと世界中のレスリング関係者が、瀬戸際のいまこそ力を発揮すると信じて今後を見守りたい。

関連キーワード

トピックス

第2次石破内閣でデジタル兼内閣府政務官に就任した岸信千世政務官(時事通信フォト)
《入籍して激怒された》最強の世襲議員・岸信千世氏が「年上のバリキャリ美人妻」と極秘婚で地元後援会が「報告ない」と絶句
NEWSポストセブン
モテ男だった火野正平さん(時事通信フォト)
【火野正平さん逝去】4年前「不倫の作法」を尋ねた記者に「それ俺に聞くの!?」 その場にいた娘たちは爆笑した
週刊ポスト
「●」について語った渡邊渚アナ
【大好評エッセイ連載第2回】元フジテレビ渡邊渚アナが明かす「恋も宇宙も一緒だな~と思ったりした出来事」
NEWSポストセブン
多くのドラマや映画で活躍する俳優の菅田将暉
菅田将暉の七光りやコネではない!「けんと」「新樹」弟2人が快進撃を見せる必然
NEWSポストセブン
三笠宮妃百合子さま(時事通信フォト)
百合子さま逝去で“三笠宮家当主”をめぐる議論再燃か 喪主を務める彬子さまと母・信子さまと間には深い溝
女性セブン
氷川きよしが紅白に出場するのは24回目(産経新聞社)
「胸中の先生と常に一緒なのです」氷川きよしが初めて告白した“幼少期のいじめ体験”と“池田大作氏一周忌への思い”
女性セブン
阪神西宮駅前の演説もすさまじい人だかりだった(11月4日)
「立花さんのYouTubeでテレビのウソがわかった」「メディアは一切信用しない」兵庫県知事選、斎藤元彦氏の応援団に“1か月密着取材” 見えてきた勝利の背景
週刊ポスト
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
「SUNTORYドリンクスマイルBAR」
《忘年会シーズンにこそ適正飲酒を》サントリーの新たな取り組み 自分に合った “飲み“の楽しさの発見につながる「ドリンク スマイル」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 小沢一郎が吠えた「最後の政権交代を実現する」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 小沢一郎が吠えた「最後の政権交代を実現する」ほか
NEWSポストセブン