フリーランスでライターや編集をするにあたり、重要なのは「人の話を上手に聞き出す」ことです。これまでに約200冊の書籍を作ってきた著述家・編集者の石黒謙吾さん(52)がこれまでの仕事をいかに能動的に作ってきたか、を描く新著『7つの動詞で自分を動かす ~言い訳しない人生の思考法』(実業之日本社)では「うまいインタビューアーはスーッと心を開かせます。それは自分の心をどんどん先に開いていくから」という項目があります。
石黒さんはいかにしてこの結論に至ったのでしょうか。その秘訣を聞いてきました。
――取材をする時、聞きにくいことを話してもらうにはどうすればいいのでしょうか?
石黒:相手を気持ち良くするとか、激しく聞くとか様々な方法論はありますが、もう一つ重要なのは、カッコ悪いところを出すこと。これで親近感を持ってくれると思いますよ。合コンで女性がいきなりビールをこぼしたりしたら、親近感持ちませんか? なんだか「オレがこのコを助けてあげたい!」とかなりません?
いや、別に露骨に計算する、とかじゃないんですけど、「自分はこの程度の人間ですよ! 全然たいしたことありません!」という姿勢を見せると、相手はあなたに親近感を持って色々と話してくれるのではないでしょうか。
自分を高いところに持っていくと、イチローみたいになるんですよね……。僕はイチローを野球選手としては本当に尊敬していますし、大好きなんですけど、唯一喋り方だけが苦手です。あまりにもカッコ良すぎるし、本音を言っていないように思えるのです。これってかつての三浦カズみたいなのですが。たとえば、2009年のWBCで不調だった時、せめてバントでも??、とバントをするも失敗したことについて「心はほぼ折れかけていた」って言いました。
これがどうも違和感があったんですよ。心が折れないためには倒れればいいだけなのです。横になれば途中で折れないのに、プライドがあるから「折れる」と言ってしまうのです。その「高みに立っている感」をイチローから感じるのですね。もちろんあれほどの選手だから高みに立つのはいいんですよ。
でも、そんなに無理しないでいいじゃん! なんて思うのですね。しかも、イチローはバント失敗の後についにヒットを打っており、これってもう「復活」を意味し、それまでの不調が帳消しになったのです。本当にヘコんでいる時ではなく、復活を遂げた後の取材の段階で「心はほぼ折れかけていた」と言ったところも、やや苦手なところです。
――つまり、イチローはまだ恰好つけているということですか?
石黒:そこまでは言いませんが、思った通りに言ってるかな? と肌身感覚で感じてしまう。話はやや逸れますが、僕が編集者サイドの仕事で、肝に銘じているのは「本当に良いと思わなかったらホメない」ということです。大丈夫かなあと心配になるような人は、なんとなく気分よくなってもらおうとか姑息なこと(笑)思って反射的にホメてしまう。でも、それは伝わりますよ。当人が、え?このレベルでいいの?って思うようなことだったりしてね。だから、本気でホメた時の迫力がなくなります。
僕の事務所にいた部下の井上。彼のことは、一緒に仕事をしていた6年間で、おそらく4年目までほとんどホメた記憶がないですね。クソミソに厳しく教えていたらじわじわ仕事ができるようになってきて、後ろの2年ぐらいはけっこう褒めてましたね。たしか、最初にホメた時は相当驚きつつも喜んでいたんじゃないかなぁ。いまは、押し出しや社交性はまだ全然ダメだけど、編集実務や原稿のレベルはすごく高いです。
「思っていたことを言う」ってことは、「思わないことは言わない」ということだと思います。良いと思わないものをホメないのは、良いものをホメた時に本当に褒めたことが分かる、ってことも意味します。これに気付いたのは実はたった2年ぐらい前かな。ほとんど僕を褒めないカミさんが「あなたのあの熱のこもったホメる言葉はな良いよ」って言われた時ですね。
それで気付いたのですが、人の懐に入ることができる「腹を割る」という行為はダサいんですよ。弱点をペラペラしゃべっているワケなのでね。でも、そのダサいところ、弱いところを見せることで、度合いはさまざまであれ信頼は得られるのではないでしょうか。
――正直に色々言った方が仕事はうまくいくものなのでしょうか? あまりホンネを言い過ぎても軋轢は生じないんですか?
石黒:少なくとも僕は思った通りに言ってもらう人が好きです。たとえば、ある会社に僕が出した企画がボツになったとします。そうしたら、担当の人は自分で会社を背負わず、会社の方針と自分の考えをそのまま言った方がいい人眼関係につながるだろうと。「私はいいと思っているけど、上はダメだと。やっぱ上の命令は絶対なので、変更せざるを得ないんです。ごめんなさい! 私の力不足で!」と言った方がいい。
そこはうまい言い言い方もありますよね。「私は石黒さんのアイディアが面白いと思うけど、上が……、頭固くて許してくれないんです」と本当も嘘も織り交ぜて、八方がネガティブな感情を溜めないよう思いやりをベースに伝えればいいんです。
それは人のせいにして逃げることとはレベルが違う。「ウソも方便」はずるいイメージあるので、「思いやりのフィクショントーク」とでも言っときますか。
マジメに100%会社を背負い込む人は、出版の世界だと若い女の編集者が多いと感じます。彼女たちって頑張ってしまうんですよね。女性は化粧・ファッションしかりで、飾るつける癖がついていることが多いからと分析しています。カッコつけるのは男性の方がまだ少ない。若い女性は仕事をするにあたって肩の力を抜いて、もっとエラい人のせいにしたりしてもいいんじゃないでしょうか。腹を割って言いたいこと言ってくださいね!
【石黒謙吾(いしぐろ・けんご)】
著述家・編集者・分類王。1961年金沢市生まれ。これまでプロデュース・編集した書籍は200冊以上。著書に『2択思考』『盲導犬クイールの一生』『ダジャレヌーヴォー』など。プロデュースした書籍には『ザ・マン盆栽』(パラダイス山元)、『ナガオカケンメイの考え』(ナガオカケンメイ)、『ジワジワ来る○○』(片岡K)など。全国キャンディーズ連盟(全キャン連)代表。雑誌編集者時代に、雑誌における女子大生の呼称・「クン」を確立させる。