スナック菓子の王様といえばポテトチップス。ポテトチップスで圧倒的なシェアを誇るのがカルビーである。
そのカルビーが発表した2013年3月期第3四半期決算報告は、瞠目の数字を含んでいた。国内市場シェアでポテトチップスが68.5%、スナック菓子全体でも53.8%と初めて5割超えを果たしたのだ。同社の今期年間売上は通期で1753億円、経常利益が164億円、ともに過去最高を見込む。
快進撃の要因は、野菜チップス「Vegips」を代表とする新規スナックが前年同期と比較して売上高が152.3%になったこと、従来のスーパーマーケット、コンビニ、ネット販売だけでなくドラッグストアなど拡大した販売チャネルが伸びていること、そして新たな柱としてカルビーが期待を寄せているシリアル製品「フルグラ」の急成長だ。
カルビーは、これまでも長い間スナック菓子業界で国内シェア1位を誇ってきた。1964年に「かっぱえびせん」を発売。「カルビー ポテトチップス」は1975年の発売以来、トップブランドの地位を譲っていない。ロングセラー商品を製造する日本有数のメーカーのひとつだ。
一方で従来までは、大きな体だが変化も少ない安定した巨人、という印象も少なからずあった。だがここにきて同社は、スナック菓子市場にとどまらず、食品市場に変化をもたらす動きを見せつつある。
転機となったのは、2009年。創業より同族経営だったカルビーが初めて、外部から経営者を招いた。外資系企業の社長だった松本晃氏が代表取締役会長兼CEOに着任。同時に、生え抜きの伊藤秀二氏が代表取締役社長に就任。それから約2年後、2011年3月11日に東証一部上場の日を迎えた。
月刊BOSS編集長の河野圭祐さんによれば、カルビーのように長く同族経営だった企業が、株式公開を視野に入れていたとはいえ、外部から経営者を招くのは珍しいという。
「カルビーは自己資本比率も高く、財務的に優良企業でした。創業家一族による堅実な経営のまま、株式公開することも可能だった。ただ、そのタイミングでさらに飛躍するには、外部の力が必要だと創業家の皆さんが納得したのでしょう。珍しいケースですね。
外部から人を入れるにしても、プロパーの人たちとぶつかってうまくいかないパターンが多いですが、カルビーはうまくいっている。CEOとして松本さんが方向性を示し、生え抜き社長の伊藤さんが現場の実務に落としこむという役割分担をされているのだと思います」
今、同社が取り組もうとしているのが、「脱じゃがいも」戦略だ。主力商品に「ポテトチップス」「じゃがりこ」「Jagabee」とじゃがいも原料のブランドを多く抱えるにも関わらず、「じゃがいもに頼りすぎている」(松本晃CEO)と別路線を強く推進している。成長するじゃがいも製品以上に、じゃがいも以外の原料をベースとした製品を伸ばす。ヒット商品となった野菜を原料とする「Vegips」はその方針に沿った製品といえる。
脱じゃがいもに取り組むカルビーの姿勢は、2月5日に行われたシリアル製品「フルグラ」の新事業戦略発表会でも強く表現されていた。同会は「“お菓子のカルビー”から“食のカルビー”へ」と題されていた。
少子高齢化と人口減少が続く日本国内で、購買者が若者中心のスナック菓子だけでは遠からず限界をむかえる。だが、“朝食”というカテゴリで日本国内の市場を考えた場合、そこにはまだ、大きな市場が潜んでいる、との目論見だろう。
「フルグラ」は、オーブンで焼いた穀物を砕いたシリアルの一種、グラノーラにドライフルーツを混ぜた商品だ。横ばい状態が長く続く日本のシリアル市場において、2012年度の売り上げが60億円、前年比160%以上という異例の増加率を見せシリアルナンバー1の座を不動のものにした。同社の新しい柱の中核に位置付けられる。
発売されたのは意外にも古く1988年。発売から25年経って日の目を見た、ということなのだが、松本氏はCEOに就任早々、この“眠れる獅子”の成功を確信したという。アメリカ生活が長かった松本氏は米国のシリアルにも詳しかったが、カルビーの「フルグラ」は他社のシリアルと比較しても圧倒的に香ばしく、食感もよかった。
アメリカ人は一人あたり年間4000円のシリアルを消費しているという。対して日本人は200円程度しかない。松本氏は、この差にビジネスチャンスがあると見た。
「高い商品開発力がカルビーの特徴ですが、それに加えて最近の強さは、経営の先見性に裏打ちされています。商品PRにアンテナショップを展開したり、海外進出にも積極的。あえて、扱いに慣れているじゃがいもではない製品で市場を開拓していこうという姿勢も、企業として体力を高めることに直結するわけで、評価できます」(証券アナリスト)
「フルグラ」は海外市場で戦う上でも有力な商品のひとつになるという目算もある。食にこだわるアジア市場では特に優位が見込まれ、現在世界シェア1位のケロッグ社の製品にも負けないポテンシャルを持つとカルビー関係者は胸を張る。
お菓子から食へ、日本から世界へ。国内シェアトップに満足することなく、挑戦を続けるカルビーは、新しい日本企業のロールモデルになりうるといえそうだ。