安倍バブル状態に政権幹部らはゴキゲンだ。「期末には株価1万3000円を目指す」(甘利明・経済再生相)「1ドル=100円までは問題ない」(西村康稔・内閣府副大臣)などと景気のいい発言を繰り返している。
大メディアもそれを後押しする。
「アベノミクス企業に明るさ 円安・株高進めば業績上振れも」(産経新聞)
「急伸、アベ相場 岩戸景気に続く12週連続の株価上昇」(朝日新聞)
ただ、いくら政治家やメディアが大騒ぎしてもピンとこないのは、アベノミクスがまだサラリーマンの懐、つまり給料に反映されてないからだ。
安倍バブルの陰でほとんど報じられていないが、厚労省が1月31日に発表したボーナスを含む月平均の現金給与総額は、前年比0.6%減の31万4236円で、調査を開始した1990年以降で最低を記録した。ピーク時の1997年(月平均37万1670円)から15年で、5万7000円も減っているのだ。
この状況のなか、「2%のインフレ目標」を掲げるアベノミクスは、給料が上がらなければ庶民には“地獄”となる。物価が2%上がっても給料が2%上がらなければ、実質的な賃下げとなるからだ。
政権側もそれを懸念しており、安倍首相は「業績が改善している企業には報酬の引き上げ等を通じて、所得の増加につながるようご協力をお願いしていく」(2月5日の経済財政諮問会議)と宣言した。
それに早速呼応したのが、新浪剛史・社長が政府の産業競争力会議のメンバーを務めるコンビニ大手のローソンだ。2月7日、2013年度からグループの20歳代後半から40歳代の正社員約3300人の年収を、平均3%引き上げる(平均15万円増)と発表した。当然、「1社でもいい傾向だ」(麻生太郎・財務相)と政権側では歓迎の声が上がった。
この流れが他企業にも波及すれば、「アベノミクスで給与アップ」が現実化するかもしれない。ところが、埼玉大学経済学部の相澤幸悦教授はその淡い期待を一蹴する。
「ローソンが3%年収をアップさせるといっても、ベースアップ(昇給)ではなくボーナス(賞与)での支給です。企業からすれば、一度昇給すると容易に下げられなくなるが、賞与なら一時的な支払いですむので、一種の広告費と位置付けてもいいと考える。
企業にとっては日本の景気回復に協力する姿をアピールできるし、政権側にとってもアベノミクスで給与アップという印象がつけられて好都合です」
事実、ローソンが今回の賞与アップに使う4億円は同社の利益剰余金(内部留保)の0.34%に過ぎない。9年連続で営業利益を更新する企業として、「大盤振る舞い」とまではいえないのではないか。
※週刊ポスト2013年3月1日号