2月に自衛隊への中国軍艦による2件のFC(火器管制)レーダー照射が明らかになった。ひとつは今年1月19日に海自のヘリコプター「SH60」に対して、もうひとつは1月30日に海自の護衛艦「ゆうだち」に対して照射された件である。
中国・人民解放軍はなぜ一触即発の危険な行為を繰り返すのか。人民解放軍総参謀部は今年1月に全軍に対し「戦闘準備をせよ」との訓令を出すなど、戦争も辞さないとの挑発的なメッセージを何度も繰り返している。
中国の最高意思決定機関は中国共産党中央委員会であり、そのトップである習近平・総書記は、人民解放軍の最高指導機関である党中央軍事委員会(中軍委)の主席も兼ねている。一見すれば、レーダー照射など一連の挑発行為は、習氏の指示のもとに行なわれていることのようにも思われる。
しかし、中国情勢に詳しいジャーナリストの福島香織氏は、その見立てを真っ向から否定する。
「中国軍によるレーダー照射は、軍の判断によるものである可能性が高い。これは、習氏が完全には軍を掌握できていない証でしょう。一連の挑発行為は、軍が就任間もない習氏の“立ち位置”を試しているかのように見えます。軍の独自行動に対して、どこまで黙認するのか、それとも抑えにかかるのか。習氏の胸の内を推し量ろうとしているのではないか。
さらにいえば、中国海軍トップである呉勝利・上将は、2007年にアメリカ海軍の要人と会談した際に“米中で太平洋を分割管理しよう”ともちかけてアメリカ側を仰天させた好戦派です。軍としてみれば、“尖閣のために動いたのに何が問題なのか”と開き直っているのかもしれない」(福島氏)
ある海自関係者も、今回のレーダー照射について「中央からの指示とは思えない」と首を傾げる。
「現代の軍艦において最も重要な装備がレーダーです。大砲やミサイルの性能よりもレーダーの出来が勝負を決するということは、軍事に関わる人間であれば常識。当然、レーダーにまつわる情報はどの国の軍隊でも機密事項です。それを挑発のために照射することなど通常ではあり得ません」
防衛省防衛研究所が昨年発行したレポートでも、現在の人民解放軍について〈通常の部隊運用に関しては軍の自律性が高まっている〉と指摘している。たとえ最高権力者の習氏とはいえ、現場の暴走を抑えられない可能性は高いのである。
『中国人民解放軍の内幕』(文春新書)などの著書がある富坂聰氏がいう。
「中国軍は国際感覚の欠如が著しく、規律も他国の軍に比べて緩い。彼らが気にしているのは中国の中での自らのポジションのみです。そのため時として国際社会の風潮を逸脱した挑発行為を行なってしまう。軍が“尖閣を奪い返すため”という主張を振りかざせば、党中央もストップはかけづらい。これからも同様の挑発が頻発する可能性は高い」
※週刊ポスト2013年3月1日号