剛力彩芽、武井咲、佐々木希、ローラ……。今をときめく女性タレントたちを自社ファッションのCMに起用するのは、何も女性専用のアパレルメーカーや小売店ばかりとは限らない。
東京屈指の繁華街である渋谷センター街に巨大店舗を構える紳士服店「洋服の青山」では、スーツ姿のモデル・佐々木希の特大パネルが、おもに女性客を呼び込んでいる。
佐々木自身が監修したという婦人スーツの専門ブランド「エヌ ライン バイ ノゾミ」は、新入生や新入社員、いわゆるフレッシャーズ向け商品の人気が高いという。
「3月から就活が本格化するので、リクルートスーツを買いにきました。就活スーツは制服みたいなものだから、安ければデザインなんて関係ないと思っていましたが、予想以上にオシャレ。これなら社会人になってからも着られるかなと思いました」(大学3年生の女性)
「エヌ ライン」スーツの価格は、WEBクーポンを使えば3万円でお釣りがくる。青山に対抗する紳士服チェーンの「AOKI」や「はるやま」でも、婦人スーツのラインアップを増やしたところ、女性向けの売上構成比率は1割強と僅かながら、伸び続けている模様だ。
紳士服専門店が多角化を進める背景について、流通コンサルタントの月泉博氏が解説する。
「団塊世代の大量退職や職場のカジュアルウェア化、少子高齢化も影響してスーツ人口は相対的に減少しています。男性のスーツ市場が先細る一方で、女性は社会進出に伴って労働者人口も増えています。そこで、紳士服店が女性用スーツという新たなジャンルで活路を見い出そうとしているのです」
1970年代後半から郊外型の大型店舗を中心にチェーン展開してきた紳士服店は、「閉店・改装セール」「2着目半額」「ツープライス店舗」など、独自の販売手法を取りながら、低価格競争や需要減少の“荒波”を乗り越えてきた。だが、「ここ数年は店舗数も頭打ちで、成熟マーケットだった」(業界関係者)との指摘は多い。
では、女性用スーツは紳士服店の新たな収益源として定着するのか。
「長年、男性用スーツで培った商品の完成度と質に対する価格満足度は抜群。コストパフォーマンスという点ではユニクロにも匹敵すると思います。婦人スーツについても、まずは低価格のフレッシャーズ向けで固定ファンを作り、ニューヨークのキャリア女性が着るようなスタイリッシュな“制服ファッション”を生み出せば、リピーターも増えて新しいマーケットを切り開いていける可能性は十分にあります」(前出・月泉氏)
例えば「AOKI」では、人気デザイナーの手により身体のシルエットが360度キレイに見える婦人スーツを発売。女性誌『CanCam』とコラボして、就活生、社会人それぞれシーンによって着回しできる提案もしている。
あるマーケティング会社の調査では、店でスーツを購入する際の決め手は、男性が価格だったのに対し、女性はデザインや自分の体型にあった型やサイズがあることを重視しているとの結果が出ている。
紳士服チェーン各社がこぞって力を入れる女性用スーツ。多種多様な品揃えで息の長いファンを獲得できるかどうかが、勝負の分かれ目となりそうだ。