アルジェリアの人質事件では、事前通告なしにアルジェリア政府は軍事作戦を敢行し、人質に犠牲が出た。日本人が知らない対テロ戦闘の国際常識とはどのようなものなのか、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が解説する。
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日本の政治家、官僚、マスメディアの中で、イスラーム過激派によるテロの実態について熟知している人はあまり多くない。それだから、「人命最優先 vs軍事作戦」という二項対立で解決策を考える。テロ対策の現場が、「人命を最優先するためにも軍事作戦をとらざるを得ない」という状況にあることを理解できていない。
ただし、匿名の政府筋の「アルジェリアに物申さなくてはならない。本当に最善だったのか。米英両国が作戦に参加すれば、絶対にこんなことにはならなかった」という発言は、軍事作戦は当然という前提で、アルジェリア軍の水準が米英に及んでいないという批判だ。この政府筋は「人命最優先vs軍事作戦」という二項対立の発想をしていない。
今回、米軍か英軍が救出作戦に従事していれば、人質の犠牲をより少なくすることができたはずだ。しかし、その可能性はなかった。なぜならアルジェリアは、独立に際してフランスと激しい戦争(1954~1962年のアルジェリア独立戦争)をした経緯があるので、他のイスラーム諸国と比較して民族意識が強く、また、1991~1999年まで世俗派とイスラーム過激派の間で内戦が展開されたからだ。
最近もイスラーム過激派のテロが散発的に起きている。このような情況で、アルジェリア政府が米軍や英軍の力を借りて人質解放作戦を行なえば、アルジェリアの民族主義者とイスラーム過激派の双方が政府に対して激しく反発する。アルジェリアが日本だけでなく米英仏にも事前通告せずに人質解放作戦に着手したのは、国内情勢を考慮したからである。
※SAPIO2013年3月号