アルジェリア人質事件では、プラント建設大手「日揮」の日本人社員10人を含む多数の尊い命が失われた。大前研一氏は、今回、改めて、日本人にはやはりあの地域でのビジネスは無理なのではないかと痛感したという。以下は、大前氏の解説だ。
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アフリカは、世界で最後に残された成長地域である。現在、アフリカの人口は10億人余りで、2044年までに10億人増え、2100年には36億人に達すると推計されている。
人口の増加にしたがって経済も爆発的に成長することが確実視され、しかもそこには日本からするとノドから手が出るほど欲しい多くの資源が眠っている。日本企業が世界の成長地域に関与しようとすれば、避けて通れないエリアである。
だが、私は今回の日揮の事件を見て、日本企業はアルジェリアやリビアなどの北アフリカ、あるいはサブサハラ(サハラ砂漠以南)地域の資源開発などのプロジェクトの多くを、もはやあきらめるべきではないかと思った。
なぜなら、この魅力あるアフリカが現在のキリスト教とイスラム教の攻防の真っ只中に位置するようになっているのに対して、日本は「テロとの戦い方」がわかっていないし、戦後の日本人の「人の命は地球より重い」「相手が誰でも、話せばわかる」というメンタリティではテロリストと戦えないからである。
一方、国内でテロを経験しているアメリカ、イギリス、ドイツ、ロシアなどは、テロリストを見つけたら、その場でためらわずに殺すことしか、テロを抑止する方法はないと考えている。逆にいえば「人質優先」を訴えた安倍首相や、遺族への配慮から被害者の名前をなかなか公表しなかった日本政府のようなウエットな対応では、永遠にテロリストとは戦えないのである。
つまり「人質がいようがいまいが、テロリストは即座に殺す」と断言できないなら、格好の標的にさえなりかねないので、テロのおそれがあるシビアな地域に行ってはいけないのだ。
※週刊ポスト2013年3月1日号