安倍政権は中国艦船からの火器管制レーダー照射事件を好機として「対中強硬姿勢」を鮮明にした。
小野寺五典・防衛相は「中国の行動は国連憲章違反の可能性がある」と批判し、安倍首相自ら中国に謝罪を要求、外交ルートでも厳重抗議を重ねている。
折しも、北朝鮮が3度目の核実験を実施するなど“危険な隣人”の暴挙に国民の不安は募っている。国家のトップがそうした“外患”に毅然とした姿勢を示すのは当然である。
だが、実は、安倍首相が最も重視していたのは中国より、米国の反応だった。
「日米同盟重視」を掲げて米国に信用があることをアピールしてきた安倍首相だが、そのタカ派姿勢がオバマ政権内部や米有力メディアからは「危険なナショナリスト」(ニューヨーク・タイムズ)と見られて警戒感を強く抱かれている。
そのうえ、訪米して「日米同盟の深化」を強調する予定の安倍首相にとってまずい事態が重なっていた。
「欧米のメディアではちょうど女子柔道の体罰事件が取り上げられ、インターネットで流れたアイドルグループ・AKB48メンバーの丸刈り謝罪映像もホロコーストを連想させると日本異質論につながっていた。それが安倍首相のナショナリスト論と結びついて日本の軍国主義の復活という誤解が広がっている危険な状態」(外務省北米局幹部)だからである。
安倍首相自身、米国の冷ややかな空気を感じており、持論の従軍慰安婦をめぐる河野談話の見直しについて、「私がこれ以上申し上げることは差し控える。官房長官による対応が適当だ」とトーンダウンさせて軌道修正に腐心してきた。
自民党の防衛相経験者は、今回のレーダー照射事件をめぐり当初は慎重だった官邸の方針が対中強硬路線に転嫁した背景はそこにあると指摘する。
「安倍内閣はこの間、クリントン前国務長官とケリー新国務長官から『尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲内』という発言を引き出すことに全力をあげた。それは逆に、米国の姿勢を不安に感じているからに他ならない。米国務省内には尖閣をめぐる日中衝突を『ナショナリストの安倍が仕掛けている』と中国の肩を持つ意見が強く、総理はハシゴを外されることを心配した。そこでこの際、レーダー照射を公表して、米国や国際社会に訴えた方が得策と判断した」
※週刊ポスト2013年3月1日号