大阪市立桜宮高校のバスケ部顧問が、激しい体罰が生徒の自殺の要因になったとして懲戒免職になった。遅きに失した処分ともいえるが、なぜ無抵抗の人間にあそこまで激しく暴力をふるえるのか、考えてみたい。(取材・文=フリー・ライター神田憲行)
* * *
「あんた、○○さんという人を知ってるか」
以前、西日本の高校の野球部監督から私のところにこんな電話がかかってきた。そんなことを突然言われても、と思ったが、珍しい姓でどこかで聞いたことがある。東日本の高校の野球部監督に訊ねてみたところ、
「それ、俺の前任者の監督だよ。体罰で処分された人だ」
そうだった。選手を殴り、倒れたところを執拗に蹴って高野連から暴力行為で処分され、その学校から免職された人物だった。
その人物はその後、他校の野球以外の運動部にコーチとして入り込んでは暴行事件を繰り返してクビになり、やがて冒頭の西日本の学校に流れ着いた。
この話と桜宮高校の体罰事件に共通する素朴な違和感が二つある。まず無抵抗の人間になぜそこまで執拗に暴力をふるえるのか。思わず手が出たというレベルではなく、桜宮高校の外部監察チームの報告書によると「平手で16~20発」も亡くなった生徒に暴力をふるっている。無抵抗な人間にこんなことは普通の神経では出来ない。
また以前にも体罰が原因で反省文を書かされたり処分されているにもかかわらず、それを繰り返している。認められないことだと自覚があるのに、なぜ暴力を止められないのか。
無抵抗な人を殴り続ける心理について、精神科医の香山リカ氏は、
「そういう人はチームの成績を上げることに不安とプレッシャーでいっぱいになっているんです。しかも選手ではないから間接的に関わることしかできず、それでいてチームの責任を問われる。自分の中の不安と緊張が無抵抗な人間を乱打することで解放されてしまうのでしょう」
と説明する。
「処分されても反省するよりむしろ屈辱感を募らせ、次の暴力のバネになる危険性もあります。自分の中の不安・緊張を、無抵抗な人間を殴ることで発散させる回路が出来上がっているかもしれません」
幼児にいたずらしたり変な写真を撮って捕まる小学校の変態教師が、毎年のように報道される。彼らは教師が変態趣味に走ったというより、まるで己の歪んだ欲望を実現させるために教師を選んだようだ。激しい体罰を繰り返す教師はどうなのか。体罰で処分された教師の「再犯率」を全国で調べてほしい。