尖閣諸島海域におけるレーダー照射問題などで日中関係が緊迫するなか、今度は芸術分野でも両国間に火種がくすぶりはじめた。
映画『のだめカンタービレ 最終楽章』をご記憶だろうか。2009年に前編、2010年に後編が公開された作品で、2010年の興行収入は、前後編合わせて77億円(社団法人日本映画製作者連盟調べ)という大ヒットを記録。
その作品中、音大生の「のだめ」演じる上野樹里が奏でるピアノを“吹き替え”で弾いていたのが中国人ピアニストのラン・ラン(郎朗)氏だ。今年1月に予定されていた同氏の日本公演が、ファンの間では大きな問題となっている。
弱冠30歳の同氏は、9歳のころから音楽を学び、ヨーロッパをはじめとする世界に認めらたばかりか、北京オリンピック開会式でも演奏するなど、人気・実力を兼ね備えた新進気鋭のピアニストだ。それがなぜ問題だというのか。
女性ファンのひとりが、肩を落として語る。
「1月16日の名古屋を皮切りに、大阪、兵庫西宮、そして東京のサントリーホールで公演を行なう予定になっていました。大ファンの私は平日に有給休暇を取ってまで名古屋に行ったんですが、突然前日にキャンセルになってしまったんです」
日本のプロモーターは「滞在中の北京で急性の胃腸炎を発症した」と発表。その時点ではすべての公演はキャンセルされなかったが、大阪、西宮、東京と順次キャンセルとなったという。
健康上の問題であれば、ある程度仕方がない。だが、関係者の間で「来日中止」についてこんな噂が流れたというから、事態は単純ではない。
「中国政府の意向が働いたからだ、とか、日本にいるはずの1月20日にリゾート地で会食していたという写真が出回ったり、サントリーホール公演当日に北京の美術館を参観したという情報も出ました」(音楽業界関係者)
現地サイトを調べてみると、サントリーホール公演の当日である1月26日に「北京韓美林芸術館」を訪問したという記事がアップされており、元気そうなラン・ラン氏の写真が添えられている。
また、日本公演を終えた後に訪問する予定だったフランスには予定通り行ったようで、中国版ツイッター『微博』に「いま私はフランスにいます」とつぶやいている。
別の男性ファンは、そのつぶやきに不満を訴える。
「フランス入りした1月28日のつぶやきがひどい。『身体はすっかりよくなりました。みなさん心配ありがとう』と書いたあと、『今日はフランスの芸術文学勲章を貰えてとても嬉しい。フランスの文化を中国に持って帰りたいし、中国の文化をフランスに伝えたい』とフランスのことばかり書いて、日本のことには一切触れてないんです」
たしかに、その後のつぶやきでも「日本」の二文字は登場していないようだ。前出の男性ファンは日本のファンに謝罪することもなく受章にはしゃぐラン・ラン氏に怒り心頭で、「もう二度と彼のCDは買わない」と吐き捨てた。
ファンばかりではなく、彼の来日公演が順調に進行できるよう待ち受けて準備を進めていたスタッフらの落胆は決して小さくない。また、今回の顛末は「今後の中国系アーティストの来日に影響する可能性がある」(前出・業界関係者)という指摘も。
事の真相はラン・ラン氏の胸の中にある。こんな時期であるからこそ、せめて芸術の世界くらいは平穏な日中関係を維持してほしいものだが。