名優たちには、芸にまつわる「金言」が数多くある。映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、その言葉の背景やそこに込められた思いを当人の証言に基づきながら掘り下げる。今回は、田村三兄弟の三男、俳優、田村亮が父、阪東妻三郎の思い出を語る。
田村は、高廣・正和を兄に、往年の映画スター・阪東妻三郎(阪妻)を父に持つ、役者一家のサラブレッドだ。阪妻は『無法松の一生』『破れ太鼓』といった現代劇の傑作にも主演した。が、「剣戟王」と呼ばれただけあり、その魅力は、『雄呂血』での延々と続く壮絶な立ち回りをはじめ、時代劇での動きの見事さ、立ち姿の美しさに尽きるだろう。
「親父は僕が七歳の時に亡くなりました。ですから、直接教わったということはありません。ただ、当時の写真を見ていても参考になることは多い。
親父って、殺陣をしていても足を開かないんですよ。斬るとき、みんなはバサッと着物の裾を拡げるけど、親父は閉じる。確かにそっちのほうが綺麗に見えるんです。そのために、親父は畳の縁を使って歩く練習をしていました。あの上を何度も急ぎ足で歩くんですよ。
着物の着方でも、今はみんなキチンとしているけど、親父はダラッとしていた。それで僕も、着付けにしても袴でもあえてゆったりと着てみます。足元も、ここは足袋をはかない方が色っぽいのかなと思って、素足に草履をひっかけたり。
役に忠実な芝居さえやっていれば、あとは汚いよりは美しい方がいいですから。特に舞台は、いつも全身をお客さんに見せているじゃない。だから、立ち姿が凄く大事なんですよ」(田村・以下「」内同)
幼い日に別れながらも、スクリーンの中に生き続ける父の姿を見つめながら、役者として芝居の工夫を重ねていった田村亮。それだけに、「見てマネる」ことを若い俳優たちにも勧めている。
「盗む、ということを僕は勧める。特に歌舞伎を見なさい、とよく言いますね。歌舞伎ってリアリティはないけど、今の俳優よりリアルに見える。そこが大事なんですよ。リアルにやることが芸なんじゃなくて、リアルに見せることが芸なの。
メリハリつけてちょっとオーバーにするからお客さんも楽しんでくれるんですよ。本人のままやっても味も素っ気もなくなると思う。せっかく『役者』という肩書きがあるんだから」
※週刊ポスト2013年3月1日号