「わ・る・な・ら・ハイサワー」のCMでお馴染みの博水社が、今年2月5日に創業85年で初となるアルコール飲料『ハイサワー缶 レモンチューハイ』を発売した。同社の経営を切り盛りするのは、3代目社長の田中秀子さんだ。飲食店回りや試飲キャンペーンなどに自ら奔走するトップの“現場力”が、新商品開発にも活かされている。パワー溢れる女性社長の視点に迫った。
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――田中さんは社長になる前から、カロリーオフの「ダイエットハイサワー」やビア風サワーの「ハイッピーZERO」などを開発してきた。
田中:ダイエットハイサワーを出した2003年当時は、発泡酒でも缶チューハイでもカロリーオフや糖質ゼロといった健康志向の飲料は売られていませんでした。でも、これは私の発案というより、「太りたくないけど飲まなきゃいけない」という営業先のスナックのママのひと言にヒントを得て、開発を始めた商品なんです。
――現場の声が商品開発につながっている。
田中:ウチは社員が22人しかいない会社だし、自分も居酒屋さんやスーパーなど現場を回らなければやっていけません。2日に1回は取引先はじめ、どこかで飲んでいますしね(笑い)。だからこそ、本当の声も聞こえてくるんです。
やはり「太りたくない」というのは永遠の女心。テレビの振付師やバレーダンサーもお酒を飲むと太るからと、レモン果汁の濃いハイサワーだけ“まんま飲み”しているそうですよ。
――若者のアルコール離れを現場でも感じるか?
田中:トータルでの消費量は減っているとは思いますが、飲む人と全く飲まない人が二極化している印象を受けています。また、最近はお酒の強い女性が増えましたね。試飲会を開いても男性より女性、特に30代~40代女性が多くの量を飲んでいるのには驚きます。女性の社会進出や独身女性が増えたことが関係しているかもしれません。
――そう考えると、2月に発売した缶チューハイは、もっとオシャレなパッケージにして女性のファン層を広げる戦略に出ても良かったのでは?
田中:最初は奇をてらったデザインにしようかと悩みましたが、ずっとハイサワーのファンでいてくれる男性たちは無視できないと、あえて馴染み深く“野暮ったい”パッケージにしました。
でも先日、新商品のサンプリングがてらに、若者が多く集まるお台場でイベントを開いたら、20代そこそこの女の子たちから「きゃ~、レトロかわいい~!」との声が上がってビックリしました。この感覚はさすがの私もついていけませんが、ハイサワーを知らない若者たちにも飲んでもらえたら嬉しいなと期待しています。
――女性といえば、ハイサワーのロゴをお尻の臀部にあしらった「美尻カレンダー」や「美尻グラス」など、ユニークな販促活動で人気だ。
田中:カレンダーは本来、居酒屋さんなどにお配りする目的で作ったところ、盗まれるなどあまりの評判に販売を決めました。実はあれも女性社員だけで作り上げたものです。最初、男性デザイナーにお願いしたら、男子がこっそりとエッチな本を覗き見るような暗い影があるイメージになってしまいました。そこで、女性社員によって作り直しました。元気で健康的な女性の水着の後ろ姿――をコンセプトに、約4000人のモデルから選びました。
――博水社には若い女性社員の姿も目立つ。
田中:飲料業界はさまざまな取引先とのコミュニケーションが欠かせないので、女性の細やかな心配りやあたたかい感性が必要な場面は多いのです。ただ、先ほども言いましたが、22人の社員しかいない小所帯ですので、男性女性・年齢にかかわらず、みな家族のような存在なんです。
私が父から会社を引き継ぐときに言われたのは、たったひとつ。「社員は20人でもその後ろには社員の家族がいる。その人たち全員があなたの払った給料で生活していることを忘れないように」と。
私が生まれた1960年代、都内に250軒あった中小企業の町のジュース屋さんは、廃業や倒産を繰り返して現在40軒ほどに減っています。事業拡大も社長の大事な仕事ですが、小さな会社をつぶさない身の丈経営で、社員の生活を守ることを第一にコツコツ頑張ります。
【田中秀子/たなか・ひでこ】
1960年東京生まれ、52歳。山脇女子短期大学卒業後、1982年に祖父の故・田中武雄氏が創業した博水社に入社。清涼飲料水や酒の知識を得るために東京農業大学の食品醸造学科で勉強をやり直しながら、製造管理や新商品企画などに従事。2008年4月創業80周年を機に3代目社長に就任し、現在に至る。
【撮影】渡辺利博