これまでに200冊近くの書籍の制作に携わってきた著述家・編集者の石黒謙吾さん(52)。 新著『7つの動詞で自分を動かす ~言い訳しない人生の思考法』(実業之日本社)では「能動的な動詞」で行動するススメを説きます。
たとえば「結ぶ」の章では「『つながろう』と煽るだけで気分よくなっていた人、被災地に行って本当に『結んだ』人」という項目があります。そして、同書では「言葉」についても様々な考察があります。「結ぶ」と「つながる」の違いについてはこうあります。
“「結ぶ」――自分の両手で2本のヒモをぎゅっと二重に固結びして、さらにぎゅっぎゅっと両端を引っ張って強く締め上げてるさま。「つながる」――ちょっと離れたところに2本のヒモがあり、通りすがりの人がそれに気づいて、軽く両端をくっつけて行ったのを見ているさま。 どうでしょう。もうおわかりですよね。他人任せか、自分でがっつり関わるかの違いです。”
こうわかりやすく「言葉」について解説する石黒さんに「嫌いな言葉」について聞いてみました。石黒さんは「ウィン-ウィン」という言葉が嫌いなのだそうです。
“我欲の深い人同士が手を結んでいるような印象を受けるから。戦争で弱い国を叩きのめそう、オレが勝つからオマエも勝とうぜ。弱いやつはいらない、と大国が手を組んでいるイメージ。僕なら『イーブン-イーブン』と言いたい。同じ分ずつ、分け合う、勝ち負けという概念なし、という感じで。誰が誰にも勝たなくていいじゃないですかと思う。”(『7つの動詞で自分を動かす ~言い訳しない人生の思考法』より)
――ほかにどんな言葉が嫌いですか?
石黒:「空気を読む」ってイヤな言葉ですよね~。僕が嫌いな言葉は、根本的に、後ろ向きな言葉。たとえば僕は草野球を年間40試合やってますが野球のプレー中、ネガティブなことを言うのが嫌いなんですよ。
「ダメじゃん!」みたいなことをエラーした人に言うのは意味がない。デメリットあってメリットゼロ。自分のチームで勝ちにいってるのに、バカじゃないかと思う。エラーを次にしないためには、もっと具体的なアドバイスをしなくてはいけません。たとえば「さっきのグラブの出し方はボールを落としやすいよ。グラブは下から出した方がいいからさ」とか。次に繋がるプラスに作用する言葉です。「何やってんだよ!」とか「気合入れようぜ!」とかは意味がなく、本人を委縮させるだけです。次の行動に繋がらない言葉が嫌いですね。
――本の中では「心が折れる」が嫌いだと書いていましたよね。2009年のWBCでイチローが絶不調でバントまで失敗した試合がありました。その試合で結局ヒットを打って復活するわけですが、その時に「心が折れかけた」みたいなことを言っていました。なんでこの言葉が嫌いなのですか?
石黒:「心が折れる」といって、誰にメリットがあるのでしょうか。心が折れないためには倒れなければいいんじゃないですか。先にばたっと横になれば途中で倒れないのに、プライドが高いから「折れる」と言ってしまうのでしょう。かっこ悪くみられたくないという深層心理がそこにあると考えます。
さっき言った「空気を読め」に関しては、みんなを平均化しようという意思が感じられる。無難が是であり飛び出るのは非であるという。たしかにそういうシーンもありますよ。でも、何も考えずにこの言葉に慣れてラクして使ってると、無意識のうちに目立たない方向に自分を律する方向に持っていってしまうはず。決まりきった枠をわざわざ設けて、メリットがあるのか、というか人生楽しくなりそうかイメージすればいい。「無難に無難にいこう」ということをばかりになると、進歩のない社会になってしまいますよね。
――イチローが言った「心が折れる」についてはどうお考えですか?
石黒:僕はイチローは大好きですが、しゃべり方だけは苦手なんですよ。カッコよくしようという演出が感じられるんですよね。だから、WBCの時のあの発言も演出のように思えます。あそこで正直に吐露したような感じでしょうが、違うんじゃないかな。その一方、1992年のバルセロナオリンピックでメダル候補だった谷口浩美がレース中に転んで結局8位になった試合の後に笑顔で「こけちゃいました」って言いましたよね。あれはカッコいいと思った。ぶっちゃけっていますよね。
いやぁ~、谷口には泣いたなぁ…。がんばって失敗をさらけだしつつも国民に元気を与えるよう笑顔を振りまいた姿に感動しました。あれは、いい。失敗してそこで「失敗しました!」というのと、うまくいってから「失敗しました…」というのは違うんですよ。
イチローは自分のイメージを上げる計算で言ってるように、僕には思えたんです。言いたい気持ちは分かるのですが、結果出した後なので。なんかねぇ……。失敗した時に言えばいいのになぁ。イチローみたいな天才に言うのも本当におこがましとは思いつつ。
【石黒謙吾(いしぐろ・けんご)】
著述家・編集者・分類王。1961年金沢市生まれ。これまでプロデュース・編集した書籍は200冊以上。著書に『2択思考』『盲導犬クイールの一生』『ダジャレヌーヴォー』など。プロデュースした書籍には『ザ・マン盆栽』(パラダイス山元)、『ナガオカケンメイの考え』(ナガオカケンメイ)、『ジワジワ来る○○』(片岡K)など。全国キャンディーズ連盟(全キャン連)代表。日本ビアジャーナリスト協会副会長。年間40試合こなす草野球プレーヤー。雑誌編集者時代に、雑誌における女子大生の呼称・「クン」を確立させる。