「脳の活動の9割は目から入ってくる情報の映像処理。そう考えれば、人間が脳の創造的な活動をやめない限り、テレビの高画質化も永久に追い求める。時代遅れとか化石研究とか言うほうが間違っている」
こう熱弁を振るうのは、アイキューブド研究所社長の近藤哲二郎氏。同社はこのたび、160インチ以上の巨大画面でもプロジェクターを通じて超高精細な映像を映し出す「ISVC」と呼ばれる新技術をお披露目した。
山や崖の岩肌、川の水面、顔のシワ……、デモンストレーションで公開された映像は、どれも遠近にかかわらずくっきりと鮮明で、画面の大きさや迫力とともに圧倒される。ソニー時代から現行のフルハイビジョンの4倍の解像度を持つ「4Kテレビ」の開発に心血を注いできた近藤氏の“ひとつの理想形”がここに結実した。
「4K映像がキレイに見えるのは60インチが限界で、それ以上になると画面のあちこちに粗が出てしまう」(業界関係者)という技術的なハードルさえ、あっさりとクリアした。
ところが、市販の4Kテレビは技術的な問題よりも大きな課題を抱えている。現在、東芝、ソニー、シャープから計4モデルの4Kテレビが登場しているが、富裕層にしか手の出ない高価格帯の商品がほとんどだからだ。
家電ジャーナリストの安蔵靖志氏が危惧する。
「ソニーが2012年11月に発売した84型の『KD―84X9000』は168万円、先日シャープが出した60型『ICC PURIOS』に至っては262万円もして、どちらも受注生産しかしていません。いくらプレミアムモデルといっても、さすがにこの値段では普及は望めません」
4Kテレビの量産化に積極的な東芝は、「他社よりも安価な価格で市場投入して活性化を図りたい」(幹部)と意気込むだけあり、現行の55型モデルは30万円台で買える。前出の安蔵氏も「1インチ1万円以下でないと普及の起爆剤とはならない」と分析する。
また、画枠のバリエーションをどこまで広げるかといった問題もある。4Kの持つ画質の繊細さや臨場感は大画面で観るからこそ堪能できる。では、小さな4Kテレビは出ないのだろうか。
「家電見本市などで、シャープは32インチ、パナソニックは20インチの4Kディスプレーを参考出品しているので技術的には可能ですが、コストに見合わないためメーカー側は50インチ以上をひとつの基準にして、4Kにシフトしていきたいはず。
ただ、フルハイビジョンよりもキレイな画質のiPad3などタブレット端末ですら高画質化が進んでいるので、小さなテレビの粗が気になってしまうという人はどんどん増えていくと思います」(安蔵氏)
いつまでも大画面の高級4Kテレビばかりで勝負していたら、国内メーカーのみならず、サムスン、LGといった韓国勢に、またいつ価格競争で敗れるか分からない。今のところ両社とも日本と変わらぬプレミアム路線で4kテレビを売り込んでいるが、次々と海外進出を果たしてブランド力をつけているのは周知の事実。決して油断はできない。
4Kテレビ普及のブレークスルーとして、来年6月に開催されるサッカーW杯ブラジル大会に合わせて始まる予定の「4Kテレビ放送」に期待する関係者は多い。しかし、そこにも課題は山積する。
「4K対応のカメラで撮影した映像しか本来の画質で見られませんし、周波数の帯域の問題もあって、当面は地上波ではなくCS放送のみで行う予定です。かつて3DテレビがCS放送でまったく関心を持たれなかった苦い経験もあるため、メーカー側は消費者の購買意欲と量産化のメドを慎重に見極める必要がありそうです」(経済誌記者)
テレビの高画質化はどこまで進むのか。その答えは開発陣より消費者が握っているのかもしれない。