【書評】『第二次世界大戦秘録 幻の作戦・兵器 1939~45』(マイケル・ケリガン著、石津朋之監訳、餅井雅大訳/創元社/2520円・税込)
第2次世界大戦において、計画されながら実行されなかった作戦、開発が進められながら使われなかった兵器について、近年公開された各国の機密文書をもとに詳述した本である。
連合国、枢軸国合わせて55の作戦と兵器を取り上げている。それらが実現していれば戦局に大きな影響を与え、歴史は変わったかもしれない。その意味で本書の内容は〈歴史の「イフ」に切り込む作業〉であり、〈「あったかもしれない」歴史からみる戦争の真実〉を描こうとするものだが、なかには荒唐無稽な作戦、兵器も含まれている。
例えば、ナチス・ドイツの「ベルンハルト作戦」。イギリス上空に飛ばした爆撃機から膨大な量の贋ポンド紙幣をばらまき、金融を大混乱に陥れ、経済を壊滅させようという作戦だ。結局、贋札を準備できた頃には戦局が悪化し、爆撃機部隊を編成できず、作戦は実行されなかった。
イギリスも“夢のような”ことを考えた。「リシン毒針雨」がそのひとつ。猛毒のリシン(タンパク質の一種)を仕込んだ何百万本もの金属針を上空から投下し、ドイツ兵の軍服を貫通させて皮膚に突き刺す。あるいは、1つのクラスター爆弾に3万本の針を詰め込んで破裂させる。そんな作戦が練られた。
だが、兵士が建物や車の中にいたり、ヘルメットを被っていたりすれば「毒針雨」には効果がないという弱点が指摘され、作戦は却下された。イギリスは、コンクリートの代わりに特殊な氷を使った「氷山空母」も計画した。これは大量の冷却ポンプを用意できず、頓挫した。
戦争という狂気は、人間の想像力と創造力をどこまでも逞しくするようだ。
※SAPIO2013年3月号