若者の暮らしに新潮流が生まれている。他人同士の男女が集まり、一つ屋根の下に暮らす「シェアハウス」だ。恋人でもない男女がなぜ一緒に暮らすのか──。そこで何が起きているのか。
「同居人とは、男女というよりも兄妹感覚ですね」
大学院に通う31歳男性は都内で20代男性2人、20代女性2人と5人でシェアハウス暮らしをしているが、「男女」を意識することはないという。
「ルールはタバコ禁止と個室のドアが閉まっている時は緊急の用件以外声をかけない、ということくらいです。仲はいいですが、恋愛関係が生まれる感触はありませんね。自分はもともと女性の下着フェチですが、同居人が堂々と干すものにはまったく魅力を感じなくなりました(笑)」
こうしたスタイルを選ぶ若者たちが近年増えてきた。複数の男女で一軒家に暮らし、家賃を“割り勘”。それぞれに個室があり、共有スペースに集まることもできる。国内最大のシェアハウス物件紹介サイト「ひつじ不動産」では、2000年には25件だった登録物件数が2011年には982件まで増加。
ブームの背景を『他人と暮らす若者たち』(集英社新書)の著者で家族社会学が専門の久保田裕之氏(大阪大学大学院人間科学研究科助教)はこう解説する。
「1990年代終わり頃からネット掲示板などで知り合った人同士で住まいをシェアする動きが出始め、2000年代に入ると事業者が空いた戸建てや改装した社員寮に複数の入居者を募集する形式も現われました。
急増の理由の一つは非婚・晩婚化です。学卒後に家族をつくるまでの期間が延び、長い間一人で暮らすより、他人と暮らすことに価値を見出す若者も増えた。さらに何より大きいのがコスト。家賃を分担することで共有スペースを含めた広い空間を割安で手に入れられる魅力です。こうした要因から、若い世代では他人と住む抵抗感が薄れてきているのです」
※SAPIO2013年3月号