アベノミクス効果により、高級時計や宝飾品などが売れ始めているらしい。そればかりか、バブル時代を彷彿させる1億円超のマンション、いわゆる「億ション」に問い合わせが殺到していると聞いても、隔世の感を覚える人は多かろう。
だが、現実に億ションの販売計画は都心部で続々と動き始めている。
三菱地所は3月に港区南青山(ザ・パークハウス グラン南青山高樹町)、6月には千代田区三番町(ザ・パークハウス グラン三番町)で全戸1億円以上という高額物件の販売を開始する。今年度の億ション販売計画は、当初予定の3倍となる300戸を見込むなど鼻息が荒い。
その他、千代田区富士見では三井不動産レジデンシャル(パークコート千代田富士見ザタワー)や野村不動産(プラウドタワー千代田富士見レジデンス)、港区麻布台には丸紅(グランスイート麻布台ヒルトップタワー)らの目玉物件となる億ションが登場する。
不動産専門の情報サービス会社、東京カンテイの井出武氏(市場調査部主任研究員)が現況について語る。
「バブル崩壊以降、億ションはリーマンショックや震災の影響も受けて振るいませんでしたが、昨年から続く株高で早くも相当な利益を出している投資家がいるため、一気に供給量が増え出しているのです。主戦場は3Aと呼ばれる『麻布・青山・赤坂エリア』か、広尾や飯田橋など。いずれも都心の好立地です」
気になる購入層は、株で儲けた投資家や「金融、証券、医者、外資系企業に勤める人たちからの関心が高い」(大手デベロッパー社員)と、やはり一部の富裕層に限られているようだ。
しかも、彼らは1億円の大台を超えようが超えまいが、あまり価格は購入条件に含まれないという。
「ある程度の資産を持っている人は、物件の設備が良くて値崩れのしない好立地であれば1億でも5億でも購入します。セカンドハウス、サードハウス、人に貸して高利回りが望める投資用としても利用できますしね」(都内の不動産会社幹部)
そして、いまこのタイミングに億ション販売が活況なのには理由がある、と前出の井出氏。
「富裕層はアベノミクス云々よりも、消費税増税に敏感です。なぜなら、安倍内閣が掲げる住宅ローン控除やその他の税制特典には、所得要件がついているのでアテにしていません。それよりも来年、消費税が上がる前に不動産を持っておきたいはず。高額物件なら5%から8%に上がっただけで車1台買えてしまうほど価格が跳ね上がりますからね」
確かに住宅ローン控除は、減税額が10年間で最大200万円から400万円へと拡大される方針だが、そもそも年間の合計所得が3000万円(サラリーマンなら3245万円)を超える人は住宅ローン控除自体が受けられない。
いまのところ、庶民には計り知れない金銭感覚で動いている億ション市場。だが、一般家庭の収入が上がり、持ち家に対する購入意欲が沸き……と、“マンション市場”全体が盛り上がらない限り、景気回復も実感できないだろう。