2006年の第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本を優勝に導いた、王貞治・ソフトバンク球団会長(72)。今大会に先駆けて、旧知の記者らに独自の分析を語っていた。それは経験者ならではの現実的かつ大胆なものだった。
「第1回もそうだったが、アメリカに渡ってしまえばジタバタしても仕方がないと開き直れるものなんですよ。むしろ予選ラウンドこそがポイントだと思う」(王氏・以下「」内同)
その予選1次ラウンドA組の日本は、ブラジル、中国、キューバとリーグ戦を戦う。 警戒すべきは当然、キューバだ。昨年11月、日本と親善試合を行なった際に来日し、2006年大会ではチームドクターとして同行したフィデル・カストロ前議長の息子・アントニオ氏と会食したという王氏は、その気合の入り方が半端ではないことを実感したという。
「強化試合の時からメンバーを11人も若手に切り替え、まったく別のチームになっている。過去の大会では決勝で敗れているため、日本に2度続けて負けるわけにはいかないという意地もある。何としてもキューバとの対戦(3月6日)までに2勝を挙げ、2次ラウンド進出を決めておくべきだろうね」
オランダ、オーストラリアを含む混戦模様のB組では、台湾、韓国に注目。
「台湾は八百長問題などで国内の観客動員数が減少したため、この大会をきっかけに起死回生を狙っている。今年のアジア選手権の開催も控えているので、戦意も十分です。
一方の韓国は、ベテラン中心の構成で、クリーンアップに李大浩、金泰均、李承ヨプなど、日本人投手の配球に慣れている選手が並ぶから要注意。今回は兵役免除の特典がないからモチベーションが低い、なんて風説も耳にするがとんでもない。対日本の時は国の威信をかけてきますからね」
王氏は「WBCの監督は誰がやっても大変なんですよ」と実感を込めて語る。
「選りすぐられた一流選手たちを分け隔てなく、平等に起用しなければならない。その点、山本(浩二)監督は年齢の割に若々しく、積極的に海外視察に出かけるような行動力があるし、代表選手に向けて手紙を書いたり結構マメにやっている。そういうところが最後は生きてくるんじゃないかな」
気になるのは、強化試合で露呈した打線の湿り気だが、王氏は意に介さない。
「国際試合では、ちょっとしたことで展開が変わる。どの試合もギリギリの戦いになると考えておいた方がいい。どんなにいい選手でも向き、不向きがあるから、この見定めが監督・コーチの一番重要な仕事になる。投手も同じこと。力投型の田中(将大)や澤村(拓一)より、指でボールを動かすタイプの牧田(和久)や能見(篤史)などの方がいいかもしれないね。これも球数制限があるから、簡単にはいかないところだけど」
王氏が強調するのは、「予選を終えれば、自ずと形ができてくる」ということ。山本監督率いる新生・侍ジャパンは、その声に応えることができるだろうか。
※週刊ポスト2013年3月15日号