成長著しい新興国の代表格であり、IT産業で世界を牽引するインド。今や世界が抱くこの国のイメージは、高層ビルが建ち並ぶ先進的な都市の光景かもしれないが、太古の昔から続く伝統儀式は今なお息づいている。
インドの首都・デリーから南東に600km、ガンジス河とヤムナー河の合流点に位置するヒンドゥー教の聖地アラハバードはいま、見渡す限りの群衆であふれかえっている。この地では1月14日から3月10日まで、世界最大のヒンドゥー教の祭典「クンブメーラ」が12年ぶりに行なわれている。
「不死の妙薬が入った壺の祭り」を意味するクンブメーラには、インド中から沐浴するためにヒンドゥー教徒が大挙して集まってくる。この期間の聖地での沐浴で、あらゆる罪が浄化されると信じられているからだ。
12年前にも約5000万人が訪れたが、インドの交通事情の発展により、今回は1か月半ですでに1億人以上が訪れた。期間中最大の3000万人が集まった2月10日には、当地の鉄道駅で約50人が圧死したと報道された。
クンブメーラに欠かせないのがサドゥ(修行者)の存在だ。数千人ものサドゥが宗派ごとにパレードを繰り広げ、聖なる沐浴地サンガムに飛び込む。なかでもナーガと呼ばれる裸のサドゥたちは異形の迫力を漂わせている。写真家の石川武志氏は、過去2回のクンブメーラにも取材に訪れた。
「牛糞の灰を全身に塗る者、片足で立ち続ける者、何年も沈黙を続ける者……。彼らは異様という表現を通り越して神々しささえ感じさせます。巡礼者たちは、自分たちには到底できない苦行を代わりに行なってくれるサドゥたちの足もとに跪き、足に触れて祝福を受けます」
今後、インドがさらなる経済発展を遂げようとも、12年後にもこの盛大な祭典は必ずやってくる。
撮影■石川武志
※週刊ポスト2013年3月15日号