第一次安倍内閣終了から6年の時を経て首相に返り咲いた安倍晋三氏の変化を、周囲はどう感じているのか。安倍氏の「経済ブレーン」といわれる高橋洋一氏(元内閣参事官)と、安倍氏を長く取材し、政府の規制改革会議委員も務める長谷川幸洋氏(ジャーナリスト)が緊急対談した。
長谷川:国会対策は非常に周到だった。首相就任後に野党政治家と会った順番はどうだったか。まず1月11日、大阪まで出向いて橋下徹氏と会い、続く13日に私邸に新党改革の荒井広幸幹事長を招いて会食し、最後に19日、渡辺喜美氏とキャピトル東急で会食した。
票数からいえば、維新は3票、荒井氏は参院の首班指名で新党改革含め5票をまとめた功労者。みんなの党は11票(当時)です。しかし会った順番は票数と逆の順番にしたところが見事で、最後に橋下氏に行っていたら「俺たちは刺し身のツマか」と思う。気配りができるようになった。
高橋:もう一つ変化したといえば、首相の周囲から情報が漏れなくなったこと。喋ると人事は絶対漏れる。6年前は漏れてたから、誰かが喋ってたんじゃないか。
長谷川:私にも高橋さんにも電話してきますけど、私たちは「評論家」として意見をいうだけ。政治家としての判断はあくまで自分一人でするし、それを外に漏らさないようになった。
高橋:そこが小泉(純一郎)さんとの違いですね。彼は郵政民営化以外はすべて竹中平蔵氏や飯島勲秘書官に丸投げしていたから、彼らを見ていればどこに着地するかがほとんどわかった。でも、安倍さんは今回の人事にしても、私たちが見ていてもわからないんだから。
長谷川:とにかく安倍さんは慎重になった。その理由は今回の政権発足の経緯にある。12月に政権が発足した時点では、非常に基盤の弱い政権だったんですよ。総裁選では地方票で石破さんに負け、総選挙で自民党は勝ったけど、投票率は10ポイントも下がった。国民は醒めていて、票も伸びたわけじゃない。それに相変わらずねじれ国会です。党内、党外、国民に圧倒的に支持されたわけじゃないからこそ、できることをやりきるという姿勢に徹したのだと思う。
ただ最近の高支持率、それと北朝鮮ファクターがあってTPP(環太平洋経済連携協定)や農業問題では強気に出始めている。慎重さから少し変わりつつあるように見える。
※週刊ポスト2013年3月15日号