4月から多くの65歳定年制が導入される。これに伴い、これにより、60歳以降も働くという選択肢が生まれたわけだが、大前研一氏はこの制度に疑問を感じているようだ。大前氏はこう解説する。
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この4月から「改正高年齢者雇用安定法」の施行により、希望者全員を65歳まで雇用する制度の導入が企業に義務づけられる。それに伴い、サントリーや大和ハウス工業が「完全65歳定年制」を導入するなど、多くの企業で定年の引き上げや継続雇用・再雇用制度が拡大中だ。経済紙誌では当たり前のように「65歳定年制時代」といわれるが、これが実際は何をもたらすのか、サラリーマンはもっと真剣に考えたほうがよい。
高年齢者雇用安定法が改正されたのは、これまで60歳から支給されていた「特別支給の老齢厚生年金」(報酬比例部分)の受給開始年齢が4月から段階的に65歳に引き上げられていくことによって生じる年金の空白期間を穴埋めするためだ。
つまり、定年後に年金も給料も受け取れない人が増えることを防ぐための政府の一方的な自己都合的制度だ。しかし、企業は社会保障団体ではない。そこを履き違えたままだと、会社も社員も不幸になるだけだ。
あなたも自分の周囲を見回せばわかると思うが、世の中の多くのサラリーマンの場合、実務的な能力のピークは35~40歳である。つまり、最も実務ができるのは係長や課長補佐クラスの世代であり、その後は年齢とともに能力が落ちていく。
少なくとも日本企業では、会社の中に身を任せる限り、35歳を過ぎてから新しく習うハードスキルはない。このため50歳を越えたら、あとはそれまで蓄積してきた「経験」をいかに活かすか、ソフトスキルをいかに磨くかが仕事になる。
とはいっても、部下の仕事を確認したり、上司の命令を部下に、部下の報告を上司に伝える“伝令役”を務めたりする程度で、部署によってはほとんど実質的な仕事がなくなるケースもあり、多くの人は「いかに働いているふりをしながら就業時間をやり過ごすか」を考えるようになる。いわば“生ける屍”だ。
65歳定年制とは、それが「給与大幅減」「役職なし」のいっそう惨めな状態で5年間延びるだけの話である。50代社員にとっては、実に非情なシステムなのだ。
※週刊ポスト2013年3月15日号