アベノミクスによって輸出企業や金融市場は円高是正と株価上昇に沸いているが、国民にとっては給料アップにつながらないまま物価が上がれば生活を直撃される。春闘まっ盛りだが、業績の回復した大企業の中でも、いわゆる賃上げ=ベースアップを要求する企業はほとんど皆無で、中小企業にいたっては、賃上げの兆しはほとんどない。
政府の政策で最も危険なのは、官僚たちが国民の収入が増えないうちに「円安」値上げラッシュを放置する一方で、ここぞとばかりにこれまでの“円高デフレメリット”はさっさと打ち切っていることだ。
その象徴が年金カット。政府はこれまでデフレ下でも不況対策として政策的に年金支給額を維持してきたが、財務省や厚労省はそれを「もらいすぎ年金」と批判して今年から大幅減額を決めた。夫婦2人の標準的な厚生年金支給額は現在の月額約23万円が今後3年で約22万5000円へと引き下げられる。月額5000円、年間にすれば約7万円のダウンで、年金生活者にとっては少なくない金額だ。
デフレ(物価下落)が今後も続くのならそれもやむを得ない。しかし、安倍政権はすでにインフレ政策へと転換した。アベノミクスの目標である物価が2%上がれば年金は目減りする。インフレ政策を進めながら、「デフレ期間に払いすぎた年金を返せ」と減額するのは、高齢者にムチ打つ行為ではないか。
※週刊ポスト2013年3月15日号