体力の衰えや病気・介護の心配、そして定年退職後の生活費…超高齢社会といわれるなかで、「老後」への不安を感じない人はほとんどいないだろう。そんな不安に拍車をかけるように、年金制度が大きく変わろうとしている。
会社員が加入する厚生年金はこれまで60才から支給されていたが、この4月から支給開始年齢が引き上げられ、61才からになるのだ。
「その後も3年ごとに1才ずつ支給開始年齢が引き上げられます。最終的に12年後の2025年には、年金は65才からの支給になります」
と、社会保険労務士の北村庄吾さん。そして、今回の制度改正で男性では51才以下、女性も46才以下の人は、65才にならないと年金がもらえないことになる。つまり、従来通りの60才定年では、給料も年金ももらえない「空白期間」が生じてしまう。この「2013年問題」に対応するために、4月からスタートするのが「改正高年齢者雇用安定法」という法律だ。
「簡単にいえば、『65才定年制』です。この法律により、60才で定年を迎えた退職者が今後も働き続けたいと希望した場合、会社側は継続雇用することが義務づけられます」(北村さん)
60才で定年退職して、あとは悠々自適の生活──理想的な老後がそんな風に語られたのは、もう過去の話。60才以降も働くのが当たり前の時代に、人生の再設計は避けて通れない課題だ。
ただし、「65才定年制」が導入されるといっても、今の給料水準のまま65才まで働けるわけではない。社会保険労務士の田中章二さんが言う。
「企業によって対応は異なりますが、多くの場合、60才の定年時にいったん退職して、退職金を受け取る。その後、企業と再契約することになりますが、肩書は平社員。一般的には賃金は4割以上ダウンすると見られています」
例えばNTTでは、2014年度から、60才でいったん退職金を支給した後、そのまま正社員として再雇用する制度を導入。60才以降は役職がなくなり、年収は300万~400万円程度になる。
サントリーはこの4月から定年そのものを65才まで延長し、退職金も65才で支給。ただし60才からは収入が6~7割に抑えられるという。
みずほ総合研究所の試算では、定年延長によって新たな高齢者雇用が65万人生まれ、企業の人件費は1.9兆円増加するという。だが、それだけの人件費を余分に払える余裕など、今の企業にはない。企業側は、40代から昇給を抑えたり、定年退職金を減らしたりして人件費分を捻出するため、65才まで働いても、60才定年と比べて総収入が変わらなくなる可能性もあるのだ。
※女性セブン2013年3月21日号