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企業が「追い出し部屋」作っても社員辞めない理由を識者解説

 景気回復への期待感は高まっているものの、サラリーマンの雇用を取り巻く環境に明るい話題は少ない。雑用をやらせる部署に押し込んで退職勧奨する「追い出し部屋」の存在が次々と明るみに出たり、政府の産業競争力会議で解雇ルールの明文化が叫ばれたり……。こんなことで日本の人材力強化は図れるのか。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が持論を展開する。

 * * *
 日本にある唯一の解雇ルールは、労働契約法に定められた「合理的理由のない解雇は無効である」という文言。それ以外は、整理解雇を実施するために満たさなければならないと判例で出された「4要件」(人員削減の必要性、解雇回避の努力の有無、対象者選定の合理性、手続きの妥当性)のみで、まったく具体性を欠いています。もっと解雇しやすいように法律でルール化してほしいというのが経営側の主張です。

 しかし、安倍政権も2%のインフレ目標を達成するためには、所得と雇用の増大を図らなければならない大事な時期。なかなか雇用問題にメスを入れることは難しいでしょう。

 そこで、経済財政諮問会議の民間議員などは、「地域限定・職務限定」の正社員制度の導入を呼び掛けています。限定した職務がなくなる、もしくは特定の事業所が閉鎖されれば立派な解雇理由になる。企業がスムーズな人員削減を行うためには、こうした新制度をつくったほうが早いと考えています。

 不当解雇による裁判を避けるために、金銭支払いの基準を法律で定めて「和解」を促す方法もあるでしょう。例えば、ドイツでは既に同様の法律がありますが、あまりにも複雑な算定基準のうえ、日本では「カネですべてを解決するのか」といった労働者団体の反発を食らい、法案化を見送った経緯があります。

 結局、日本では簡単に社員を解雇できない状況のため、1990年代以降、「追い出し部屋」のような雪隠詰めの部署に押し込み、退職強要する会社が増えてきたのです。昔なら、リストラ要員は人事部の預かりになり、関連会社に出向させて1年間は給料を支払うという“優しい措置”もありました。しかし、バブル崩壊以降は企業体力に余裕がなくなり、一気にクビ切りへと追い込む手法を取っているのです。

 私の結論を言えば、陰湿な「追い出し部屋」をいくら増設しても人員は減りません。

 なぜなら、戦力外通告を受けた社員の人事評価は5段階評価でDやEと下位ではなく、B評価やC評価をもらっていた人がほとんど。つまり、いくら能力がなくても上司の温情で甘い評価になっていたため、「なんで、オレが辞めなければいけないんだ!」と憤って、逆にしがみつかれてしまうからです。社員に健全な危機感を持たせなかった企業の責任です。

 その点、不況期だろうが好況期だろうが、下位5%は常時リストラしている外資系の経営は、シビアですが分かりやすいのかもしれません。サムスン電子なんて45歳までに部長になっていなければ、みな自主的に会社を去っていくわけです。

 サムスンのやり方を日本に定着させるべきなのかは議論の分かれるところでしょう。しかし、法整備により解雇をしやすくすれば悪ノリする企業も出てくるはず。ならば、適正な人事評価に則り、自社の恒常的な“運用”によって解雇していく。そのほうがいいと話す企業の人事担当者もずいぶん増えてきました。

 日本企業に問われている最大の課題は、ボリュームゾーンといわれている40代前半で下位評価の社員たちを、いかに配置転換して再起を図らせるか。もしくは再就職のサポートができるかに掛かっています。いつまでも“仲良しクラブ”では、その人たちが50代になってからでは手遅れ。会社は高給を払い、社員の再就職もままならない年代。お互いにとって悲劇なのです。

「追い出し部屋」は景気回復で雇用が安定してくれば廃止されていくでしょう。しかし、問題の根源は追い出し部屋の有無ではありません。

 好況期に向かう今こそ、企業は人事の構造改革に真剣に取り組まなければ、また不況期になれば大量リストラを迫られ、国際競争力に敗れていく。その悪循環の繰り返しになるのです。

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